読書録─『果しなき流れの果に』 | 無名戦士の黒い銃

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読書録─『果しなき流れの果に』

読書録─『果しなき流れの果に』小松左京/角川文庫

流れ

 これも再読。消化しきれなかった感が強いので、あらすじを記載する。無論のことネタバレ注意である。なおどのへんがネタバレに該当するか判断がつかなかったので、まんなかあたりから全部白字にする。



プロローグ ±n



・恐竜時代、一匹の暴竜の前で、一筒の奇妙な形をした電話器が鳴る。文明どころか人間すら存在しないはずの太古に、なぜ電話器が?



第一章 象徴的事件



・野々村は理論物理学教授である大泉と、史学部の番匠谷教授から奇怪なものを見せられた。六千万年前の岩層から発見された砂時計は、上から下へ間断なく砂がこぼれ続け、いくら落ちても減らず、いくら受けても増えない、四次元的な構造をもっているらしい。番匠谷教授の要請で、野々村は砂時計のでてきた古墳の発掘を手伝うことになる。

・恋人の鴨野佐世子に葛城山近くの現場に発掘に向かうことを告げると、偶然にも佐世子の故郷であることが発覚する。

・飛行機で伊丹に到着した時、空港の待合室で一人の男が野々村に声をかけてきた。「“クロニアム”はどうしました? 砂時計は」との問いに、教授を迎えにきた学生と勘違いした野々村は、大泉教授のところにおいてきたことを告げる。すると、一瞬目を離した間に男の姿はかき消えていた。そして番匠谷は迎えの弟子など頼んでいないという。ではあの男は何者なのか? 大泉は大丈夫か。

・翌日、古墳へ向かう途上、野々村は昨夜の男が先行していることに気づく。あわてて後を追うが、古墳の中に男の姿はなかった。

・古墳は奇怪な構造をしていた。羨道が二つあり、第二の羨道は山中に向けていきどまりとなっている。また内部には、ぶあつい岩をとおして外へとまっすぐに通じる真円に近いと思われる穴が開いており、玄室には棺すらない。

・玄室の中で野々村は奇妙なものをひろう。タイピンほどの大きさの、プラチナの金属片。一方の端に赤いビーズ玉のような球が二つくっつき、研磨された表面にはふしぎな記号が六つ、刻印されていた。先刻の謎の男が落としていったものなのか。

・砂時計は、第二の羨道の先の、岩にはさまっていたらしい。海底につもった砂が岩になったものであり、相当な地圧がかかっていたはずなのに、砂時計はその地圧にもびくともしなかったということになる。

・さらに野々村は、岸壁の上方に、光線銃じみた形のピストルのような機械の陰刻を発見する。砂岩層には、他にも何かが埋まっているのかもしれない。

・いったん引き上げかけたとき、野々村はタバコの臭気を感じとり、誰何したがやはり人影はない。だが岸壁の中から吹きだしたかのごときタバコの煙を彼らはたしかに目撃した。さらに、岸壁に耳をつけると、その奥でかすかに遠ざかって行く足音がきこえた。つづいて電話のベルのような音。



第二章 現実的結末



・その夜、ホテルに佐世子が訪ねてきた。野々村が突然どこかへ行ってしまいそうな予感がして、矢も盾もたまらず会社へ早退届を出したその足で飛行機にのってきたという。

・夜半、東京からの電話が野々村をたたき起こした。大泉教授が脳溢血で倒れたのだという。佐代子がすばやく東京行き深夜便の切符をおさえ、野々村はあわただしくタクシーに飛び乗る。番匠谷は所在が知れない……。

・疾走するタクシーの中で、野々村は呼びかけてくる声を耳にする。時速七十キロで走る車の外から、あの青年が「鍵をかえしてくれ」と語りかけてきたのだ。驚愕のあまり身動きもできないうちに、青年はドアを開いて彼の腕をつかむ。

・翌日、佐世子から凶報をきき呆然とする番匠谷。東京に電話をかけ、大泉が逝去したと告げられる。そして野々村は姿を現していないとも。そこへ、昨夜野々村を乗せたタクシーの運転手が、料金を受け取っていないことを告げにきた。話をきくと、走行中のタクシーから野々村は忽然と姿を消してしまったのだという。

・番匠谷は、昨日の青年の関与を予感し、古墳に向かうが、玄室で何者かに殴打され重症を負った。命はとりとめたものの、脳の働きは正常に戻らない。佐世子は、医師から番匠谷の症状が、高エネルギーの振動に遭遇したためではないかとの推測をきかされる。

・番匠谷の知人であるというアメリカの学者リードが現れ、佐世子に奇怪な砂時計の話を告げる。リードは事件のことについて調べることを約してアメリカへの帰途についたが、ホノルル空港で行方不明になってしまう。彼を含め、古墳に関わった人々はことごとく失踪もしくは死亡してしまった……。



エピローグ(その2)



・その後古墳は調べられたが、第二の羨道などというものは見つからなかった。佐世子は会社を辞めて故郷の叔母のところに転居する。そして、古墳を発見したのが叔父であることを知る。だが叔父もまた、野々村たちが古墳を訪れた時に行方不明になっていたらしい。佐世子は、野々村が長い歳月を経て戻ってくることを予感し、ただ待ち続けた。時は過ぎ、老婆となった佐世子のところに、いつしかひとりの老人がいついていた。ある雹のふる夜、その老人が交番に現れ、老婆が死んだことを告げる。老婆は、身寄りのない老人を野々村と思いこんでいたらしいが、老人はそうではないと否定する。そして老人もまた交番で、ひっそりと息をひきとった。



第三章 事件の始まり



・はるかな未来。ひとりの男が病室で奇怪な夢から意識をとり戻す。記憶がない。医師らしき男が、自白強要剤の影響だと告げる。研究所の立入り禁止区域で泥酔してうろついていた男は、誰何した警備ロボットをフォノン・メーザーで故障させたのだという。だが医師はつづけていう。泥酔状態はカムフラージュで、自白剤をのませたら死にかけたのも人為的に脳中に禁止領域がつくられていたためではないかと。

・そのとき、突然男の頭の中で声がする。病室は禁止区域のすぐ裏にあると告げ、そこに向かうように命令する女の声。任務の遂行を執拗に強要するが、席を外していた医師が戻ってきたとたん、声はふっつりと途切れる。

・徐々に記憶が戻り始めたらしい男に、医師は“所長”が面会を求めていると告げる。そして男に向かってこう呼びかける。「保安省秘密調査部の、ムッシュウ・M」

・軌道エレベーターに乗り定点衛星を訪れる。迎えた所長は、さきほど頭の中に響いた声の主が、保安省特捜課長のオリガ・メチニコフであるという。

・男は表の身分である星間保険連盟の要請で調査に訪れたのだと告げる。短い時期に連続三回の事故。連邦保安省は、超科学研究所が何かを隠しているとにらんでいる。対して所長は男に、五号資料衛星へ向かうと告げる。

・五つの電子頭脳の“討論(ディスカッション)”を使い、研究所で二百年にわたって蒐集してきた資料から、あと一歩で結論が導き出されるというときに電子頭脳を搭載した衛星二機を含む連続事故が起こったという。保険金目当てでわざと事故を起こす道理などないと主張する所長。実験は中止されたが、事故そのものが研究所の追究していた問題と微妙につながると彼は考える。その結論とは、未来からの干渉。しかもその干渉の仕方には、二つのパターンがある。一つは、歴史の上に点々とばらまかれている、彼らへの何らかの訴え。もう一つは、その訴えを妨げようとするもの。証拠を消し去り、知識を奪い、人類の関心をそこからそらそうとしている。

・五号資料館には一台の、三百年前のテレビがあった。そのテレビが失われた資料の埋め合わせになるかもしれないと所長は告げる。テレビは三百年前のある病院の病室におかれていた。そして病室の主が死んだ後、テレビの画面に死んだ病人の顔らしきものがうつるようになった。その口は、何かを訴えるように早口でたえまなく動くという。研究所が長い調査期間をかけ調査したところによると、病人は危篤状態にある時“離魂”と呼ばれる現象を起こし、その意識だけが時間も空間もない場所に閉じ込められていることがわかってきた。その場所からは見えないものが見え、理解できないものが理解できるという。そして彼はそこで見聞したものについてしきりに警告を与え続けているというのだ。それこそが、五つの電子頭脳の討論から導き出された推論とまったく同じ、“未来から干渉してくる二つの力について”なのだという。そして<以下ネタバレにつき白字>テレビに映る幽霊の名は“バンショウヤ博士”。

・その時ふいに、ムッシュウ・Mと呼ばれた男が合図をするとともに床から銃が出現し、彼はテレビを破壊した。そして超科学研究所所属の資料衛星No.5は突如として砕け散るのだった。

・学術省は衛星の爆発事故に、保安省特捜課のムッシュウ・Mが関係していたのではないかと詰問するが、メチニコフは保安省に“ムッシュウ・M”という人物は存在しないと反撃する。学術省が事故責任を他に転嫁しようとしている、と。



第四章 審判者



・ムッシュウ・Mと名乗っていた男は、意識だけの存在となってどことも知れぬ異空間のような“古巣”に戻った。姿なき声に向かって報告を始める。通話装置(テレビのこと?)は破壊したが番匠谷の意識はいまだ別の空間に閉じ込められていること。二十三世紀に肉体化(インカーネイト)した時、意識が再構成される直前に“彼”と呼ばれる存在から直接接触があり、認識の超越性について語られたこと。姿なき声は男に「アイ」と呼びかけ、次の指令を告げる。すなわち第二十六空間にいき、そこの“審判者”たちの収穫の指揮をとること。

・火星の上でリック・スタイナーが松浦という名の男に語りかける。三時間後には太陽の異常による熱波が押し寄せ、地球は壊滅的な打撃を受ける可能性がある。彼らは火星の裏側にいたが、そこも無事でいられるかどうかはわからない。

・地上では松浦の旧友であるハンス・フウミンもその時を待っていた。彼は選抜委員として生きのびるべき人材を選抜したあと、気休めにしかならないシェルターを用意して現地の人々と破滅の時を待っていたのだ。が、いよいよ熱波が押し寄せようとした時、突如として空中に未確認飛行物体の船団が出現し、そのうちの一機がハンスのところへとやってきたのだ。彼らはハンスを救いにきた異星人だと名乗り、思考力をなくしたようになった彼を船内に収容しようとする。がその時、ハンスの背後から別の声が制止した。声の主に手を引かれ、わけもわからぬまま逃走を開始した。

・火星にも異星人の船団は現れ、人類を救いにきたと告げる。自主的に救助されるよう彼らは勧めるが、人類がそれを拒否したとしても一部の人々を選抜して強制的に収容するという。大量移住計画の実行委員のリシッキイ教授が火星の人々に呼びかけ、移住に反対の人がいるかどうか多数決を行うと告げる。制限時間が過ぎたとき、一名だけが表示板のネオンランプを「反対」を意味する点灯状態にした。時間外であり、多数決にも影響はなく移住は実行される。松浦もまた異星人の円盤に収容されるが、そこで、かつて恋のさやあてをハンスと行ったエルマと再会した。エルマはハンスと結婚することになっていたのだが、今回の破滅が明らかになった時点でハンスは身を引き、選抜委員として地球に残ったのだという。

・そこへ、異星人が話しかけてくる。ハンスと松浦がテレパシーで時折つながっていることを指摘し、地球でハンスの収容が失敗に終わったことを告げ、何か心あたりはないかというのだ。もちろん松浦に思い当たるところはない。続けて異星人は、リシッキイが決定委任を求めた時、たった一つ送られてきた拒否のサインについても問いかける。腹を立てて「(心当たりは)あるわけがない」と告げる松浦。



第五章 選別



・超空間を航行する宇宙艇内部で奇妙な現象が発生する。心理的時差が実際に発生しているらしい。航行を始めてから数分しか経っていないものもいれば、一年もとび続けていると主張するものも。それぞれの時計も、体感時間にあわせて動いているらしい。

・アイは収容作戦に現れた妨害者について報告を受ける。地球にいた者たちのかなりを横からさらわれたため、“敵”はますます勢力を増すだろう。アイはそのまま二十世紀のニューヨークに移動し、同僚のサムに野々村の去就について問う。行方はあいかわらずわかっていない。

・リック・スタイナーたちが乗った宇宙船がある場所にたどりつく。突然の睡魔におそわれ、目覚めた時には地上にいた。宇宙艇も、彼らを救ったはずの異星人の姿もない。捨てられたのか。大気は呼吸可能。環境は驚くほど地球に似ている──否、そこは、地球そのものだった。ただし過去の時代の。石槍と棍棒を手にした、毛むくじゃらの巨大なサルのようなものが襲いかかる。



第六章 襲撃



・対立勢力が二十世紀のニューヨークへの襲撃を画策する。その中には、あのハンス・フウミンの姿もあった。組織を率いるルキッフの指令で“N”が一隊の指揮をとることになる(野々村?)。

・松浦は奇怪な部屋に閉じ込められていた。ドアも窓もない、穴すら開いていない正方形の部屋。突如、松浦が透視能力を発現させた時、部屋は急激な速度で縮みはじめる。声を限りに助けを呼ぶが、反応はない。このままでは押しつぶされてしまう……。

・が、ふと気づくと、部屋の外にいたのだった。男が現れ、松浦が試験にパスしたことを告げる。他に三十人の人間が、松浦と同じ階梯に踏み出したという。彼らはまさしく選抜されたのだ。その時、突然襲撃が行われた。混乱状態の中で松浦はかろうじて気密函に逃れることができた。

・一方、Nたちの襲撃計画は頓挫した。排除すべき二人のうち一人が姿を現さず、逆襲を受け、Nはとっさに退避するが──。

・松浦が意識をとり戻した時、周囲は惨憺たる状態だった。“隊長”と呼ばれていた男が、声なき声で呼びかける。機密函の窓から見える光景に、松浦は怒り狂う。二十五世紀の火星の、植民都市がそこにあったのだ。二十一世紀末に滅亡したはずの火星も地球も、無事にそこにある。だましたのかと難詰する松浦に“隊長”は語る。それは、松浦の地球ではないのだと。“隊長”はさらにいう。もう少したてば、融合がおわる、と。松浦と彼とはひとつになるのだという。松浦の存在を借りることが必要なのだという。意識が完全に奪われてしまう前に、かろうじて松浦は問いを発することができた。エルマはどうしたのかと。答えは驚愕に満ちていた。彼女は松浦の子を宿し、月のキャンプにいたがそこも襲撃されたと。

・襲撃について報告を受けるルキッフ。ハンスが知り合いの女性にあったために、作戦に支障をきたしたこと。ニューヨークへ行ったもののうち生きのびたのはN一人だが、衝撃でどこへ飛ばされたのかわからない、と。ハンスが出会ったのはエルマだった。



第七章 狩人たち



・I・マツラ──松浦とアイとの融合体が冥王星の移民船を調査する。移民の中に、彼らの標的がまぎれこんで脱出をはかっているらしい。だが結局見つからなかった。

・一方、戦中の日本に、異人夫婦から赤子を託された女性がいた。彼女の名は野々村。

・古代日本に姿を現したN。彼と同じように雌伏している同僚に出会う。ルキッフは追い詰められているらしい。そしてそのルキッフから、Nが後継者に指名されたことを告げられる。“時間と認識”の論文がその決め手となったらしい。はるか過去に書かれた論文が。

・アイ・マツラはNたちを追いつめるため、考え得るあらゆる場所に網をはる。同僚は、アイが松浦の意識を吸収してからかわったとつぶやく。



第八章 追跡



・アイ・マツラは辺境の駐在員を訪ねる。逃亡者たちに関する有力な情報を持っているらしい。駐在員はかつて第四階梯にいたが、降格してこの辺境に──未来の地球、人類が滅び、蟻の進化した生物が支配する未来のない地球に送られていた。マツラにくってかかる駐在員。反逆者たちは支配に、運命に、たてつき、刃むかっている。それに比して、マツラたちはさからって見ようと思ったことさえないのだろうと。マツラは怒りがこみあげるのを自覚する。かつては彼も、抗ったことがあった。が、その反抗さえもが予定された運命の支配の糸の中に仕組まれたものであると知ったのだ。

・駐在員はあきらめたように情報を開示する。彼の降格のきっかけとなった事件──白亜紀、ある系列を絶滅させる“刈りこみ”を行っていた時、最後の点検時に彼の相棒は一人で地上にいた。開始時間が迫っているのに返事がなかったため、そのまま刈りこみ作業を始めてしまったのである。地上作業は必ず二人一組と決められていたにも関わらず。その時、相棒が帰らなかったのは火山弾にやられたためと考えていたが、マツラからの通達を目にした時、同僚は基地になっている洞窟の外に倒れていた。にも関わらず、通信機で同僚に向かって、異常はないかとたずねた時──誰かが“ない”と答えたことを思い出したのである。

・報告をききおえ、未来の荒廃した地球を後にするマツラ。眼下で、駐在員が斜面をゆるやかに転げ落ちていく姿が藪の中に消えていく。

・古墳時代、Nと二人の仲間は敵が追いついてきたことに気づく。あの葛城山近傍の山腹の古墳は、彼らが逃亡のために作成したものであった。さらに、その奥に埋まっているはずのクロニアムが、通信機として使用されているらしいことを知り、羨道を奥に向かってのばしている最中であったのだ。クロニアムを使って信号を送ってきているのは、ルキッフであるらしい。Nは、クロニアムが通信機として使えることを知り、大泉教授のことを思い出す。おぼろげな記憶。

・追跡途上でアイ・マツラは、リック・スタイナーと偶然再会する。彼はプレ・サピエンスからホモ・サピエンスのブランチを導き出すのに、人為交配の実験に使われていたのだ。リックは必死に助けを請うが、マツラは何の感慨も抱かぬままその場をあとにする。

・クロニアムの電波をかぎつけ、追手が迫る。やむなくNたちはクロニアムの発掘をあきらめ跳躍する。



第九章 狩りの終末



・Nは、いや、野々村はルキッフの伝言の意味を理解する。二十五世紀で、三十世紀で、達成された認識を一万年前の世界にフィードバックする──すなわち一万年かかって到達できる知識を、一万年前の世界に戻すことである。仲間は歴史がかわってしまうことに躊躇するが、野々村は、歴史を変えてなぜいけないのかと反問するのだった。そのことによって、一万年かかって達成できた歴史が、百年で達成できるようになる……。

・そのフィードバックを何度も繰り返すことにより、“種”としての有限の生存期間内に、自分たちが想像している限界をはるかにこえる、ほんとうの限界を達成できるかもしれない。

・ルキッフの構想を実現せんと決意するNたちに、アイ・マツラの追跡の手がのびる。追い詰められた野々村は、敵の眼前で跳躍にうつる。

・タウ・ケチVのポーカークラブにNは姿を現す。クラブの実態は『時間密航者クラブ』であり、四十二世紀に大弾圧された『拝時教徒』の残党たちであった。Nは拝時教徒たちに語る。過去は、絶対に変えてはならない──という理由のわからぬ掟によって、人類は自ら規制して時間旅行に対して慎重になっていた。掟を破ろうとした者はそのとたんにとらえられ、どこかわからぬ所へつれて行かれ、その消息は二度とわかることがなかったからだ。こうした恐れから“超越者”の手先となり、地球人であるにも関わらず同胞である地球人を弾圧する者が現れたのである。Nは身を挺してこれらのタブーに挑むことを提案し、その具体的方法として過去を大幅に改造することを示す。ここでも歴史を改変することへの恐れに対する言及があがったが、Nは、人類そのものが、彼らの知らないもう一つの世界の未来人によって歴史を変えられた結果であることを示唆する。文明は、未来人の手によって人類にもたらされたものなのだ、と。

・だがついにそこにもアイ・マツラの追跡の手が及ぶ。追い詰められた野々村は、三台の時間機を同時に作動するようにして、自殺的な跳躍を試みる。野々村が、包囲陣はむろん、超空間内からも消えたと報告を受け、アイ・マツラは自ら野々村を追跡する。



第十章 果しなき流れの果



・無謀な跳躍は野々村を、時間さえも超越した『場所』へと導いていた。時間はおろか、その時間を含む無数のパラレル・ワールドをも俯瞰できる超々時空間。そこで、強大な意識が野々村に呼びかけてくる。ここに来てしまったのか? と。その意識こそが“超越者”なのだ。野々村は超越者に問いかける。なんのために、人類を管理したのか。それは私たちも知らない、と超意識は答える。彼らもまた、ずっと上の方の、超時空間内の超意識をすら、はるかに超えるもののために、それを行っているのだと。

・同時に、アイ・マツラもまた野々村と、そして超意識体と融合していた(描写が唐突で正確なところはわからない)。肉体はすでに存在していないため、アイは、松浦の意識が急激に励起されているのを発見する。そして、松浦と野々村が親子であったことを知るのだった。・アイは上昇を始める。滔々と流れ行く超時空間に、直行する方向へ向かって。階梯概念が制止するが、アイは逆らって上昇を続ける。階梯概念は、上昇を続ければ宇宙は一つの貴重な超意識体を失うことになる、と告げる。『上』に上れば上るほど、特殊化の進んだ超意識体の、複雑高密度の組織があり、やがてそれは、ここの超意識体ではなく“宇宙の脳”に似たものの形をとりはじめる。そして“脳”は完全ではなく“意志”のパターンもそれ自体では未完成だった。そして末端神経細胞の段階にあるアイがこの極度にデリケートで緻密な、超意識体組織の中を上昇すると、組織破壊が起こり、アイ自体をも傷つけていく。

・だがなおも上昇を続けるアイ。宇宙そのものをつきぬけたとき、そこで垣間見る。大宇宙が、逆行宇宙として認識し得るもう一つの別な宇宙とのあいだに、第三の、この宇宙の限界をさらにこえた進化を可能になるような別個の基本条件をそなえた宇宙を生み出しつつあるさまを。

・掟を破り、知ってはならないことを知った代償に、アイの超意識体の凝集秩序は擾乱され二度と元に戻ることはない。アイは罰されたのではなく、自らを滅ぼしたのだ。かすかなこだまが、落下して行くアイの、意識の遠くにひびく。アイは第二階梯に──肉とともにほろびる意識の中に、何もおぼえてはいない状態でほうむられていく。



エピローグ(その1)



・アルプスの雪渓で、一人の東洋人の若者が発見される。全身凍傷に犯されていた若者は治療をうけて命をとりとめたが、五十年間、意識は戻らぬまま、眠りつづけた。そして二○一六年のある日、突如眼ざめた“スイスのリップ・ヴァン・ウィンクル”は、ついに記憶を回復することなく、故郷の日本へ帰還する。意識が戻るとともに日本語を喋ったために日本人だということはすぐにわかったのだ。
・老人は日本のあちこちをさまよい、葛城山麓にたどりつく。そこで一人の老婆と出会う。老婆は老人が野々村ではないかと期待をかけるが、記憶は戻らぬままだった。そして老婆にせがまれるまま、老人は五十年間眠りつづけていたあいだに見た“夢”の話を語りだす。
<以上ネタバレ>長い長い、夢のような、否、夢物語を。





 さて、感想であるが。
 傑作の名声も高い本作であり、小松左京の代表作にもあげられる本作である、のだが。
『神への長い道』という作品は私にとって極上の一編の地位をいまだに保ちつづけている逸品のひとつだし、他にも小松作品は好きなものがたくさんある。
 で、初読時にはその名声も手伝い、たいへん期待して手にとったのだが──やや落胆の記憶があった。時間空間を縦横無尽に飛びまわる内容に加え複雑な構成。混乱し、内容を正確に把握しきれなかった感が強かった。そのための、今回の再読でもある。あらすじも意識的に書きだしてみた。内容は理解できたつもりである。改めての感想は──残念ながら記憶を塗りかえるには至らなかった。
 おもしろくないことはない。が、小松ベストに推すほどではない。
 巻末の解説によると、本作の連載開始が一九六三年。私の生年である。当時は斬新な設定であったのかもしれない。
 だが時間空間テーマ、重厚なSF設定と、それとは真逆の、だからこそ作品全体を支える叙情性──まさしくこれらの内容を骨子とした山田正紀の『チョウたちの時間』を、私はすでに読んでいたのである。当時私は青春時代まっさかりであった。夏の図書館で出会う少女のイメージは、当時の私の気分に非常によくマッチした。構造的にも雰囲気的にも似かよっているが故に、本作と山田正紀の逸品とを、初読時にはどうしても比べてしまった。老人となった恋人たちが幸福に添い遂げる“最初の”エピローグも、あまりピンとこなかった。
 作品の成立順からして、むしろ山田正紀がこの小松作品に巨大な影響を受けたであろうことは想像に難くない。だからこの感想がきわめて的外れであることもわかってはいる。
 だいたいにおいて気難しいSFマニアたちのあいだでオールタイムベストにもくりかえし選ばれてきた本作を、気に入らないなどと放言することの内包する危険性ももちろんわかってはいる。読みがたりないだの人生の深みを理解できていないだのといった冷笑まじりの批判も耳にきこえてきそうだ。だれもが誉める作品をわざわざけなすほど若くもない。
 でもおもしろくなかったんだもん。
 私も齢を重ねたので、主人公たちの叙情的な部分だけでも理解できるようになったのではないかと期待もしたが、山田作品のようにストレートに“気分”を感じさせてくれることもなく、叙情を感じさせるには二人の関係に感情移入しきれないまま話が本筋にシフトしてしまった感もあり、もとよりSF的な仕掛に至っては「ふうん……なるほどねえ」以上の感想を抱かせてくれるほどの意外性も受けとることができなかったし。
 作品の半ばでいきなり「エピローグ(その2)」などと出てくるのも、あざとさが鼻につくだけで今の視点からすると斬新さは特にない。発表当時は鬼面人を驚かしたのかもしれないが。
 あさはかの謗りを覚悟で、断言したい。小松作品にはもっとおもしろいものが山ほどある。この作品は、古い。


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※文中の画像はAmazon等へのアフィリエイトリンクが含まれます。
※この記事は2009年05月10日 18時32分15秒にアメブロに投稿した記事を転載したものです。
 またこちらへの転載に伴い、アメブロおよびBloggerのミラーサイトに掲載した元記事は削除いたしました。

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詳細なあらすじになる場合もあり、ネタバレもがんがんしまくりますので、あらかじめご了承願います。

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