読書録─『マルチプレックス・マン』 | 無名戦士の黒い銃

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

タグ/

読書録─『マルチプレックス・マン』

読書録─『マルチプレックス・マン』上・下/ジェイムズ・P・ホーガン 創元SF文庫

追われる男

 初読。本書のみならず、ホーガンの作品自体、これが初です。
 ざっとあらすじ。ネタバレ御免。

「ジャロウ」(第一章~第二六章)


・統制のつよい近未来。ミネアポリスの保守的な学校教師ジャロウは、要請を受けて神経生理学の検査のために、ヴァルトハイム博士の医院を訪れる。いつもどおり診察台で眠りについたが、目覚めるとミネアポリスからは遠く離れたアトランタのホテルにいた。テーブルの上にある身分証やクレジットカード類は、モーリス・ゴードンという男の名義になっている。状況をつかめぬまま、同室者がいるらしいことに戸惑い、逃げるようにホテルをあとにした。

・ミネアポリスに戻ったが、ヴァルトハイムのところで眠りに落ちたのは四月であるはずなのに、すでに十一月であることに気づく。学校を訪問するが、出会うひとびとは誰ひとりとして彼をジャロウと認めてはくれず、それどころかジャロウは数ヶ月前に死亡していると告げられる。

・ホテルを出るときに現金などといっしょに何気なく持ってきたメモに記載された電話番号に連絡すると、リタ・チルゼンという女性が連絡を待っていた旨告げた。リタはアトランタのあのホテルで、彼と同宿していた女性らしい。だが彼女もまた彼をジャロウとは認めず、彼女の恋人であるトニー・デミーロであると言い張る。

・シカゴにあるリタの住居に、謎の男たちが訪問する。彼らはドアごしにジャロウに向けて「サムライ」と呼びかけた。我知らずわき起こる警戒心につき動かされるまま、ジャロウはリタをつれて訪問者たちを逆襲し、包囲網を抜けて姿をくらますことに成功する。冷静というよりは冷徹な判断と驚くべき体術・行動力を発揮しての結果だが、ジャロウ自身は我に返ると呆然とする。平凡な教師である自分に、なぜフィクションの中のスパイのような行動をとることができたのか……。

・リタの話によると、アトランタで目覚める前日に彼は、軍に所属するトニー・デミーロとして行動していたらしい。デミーロは軍のある実験に志願して、ピアーズの研究所に滞在していたのだが、やはり数ヶ月前に死亡の知らせがリタのところにいったとのこと。ところがそのデミーロから会いたいとの連絡が入り、記憶に混乱がみられたという。デミーロは他者の経験を注入されることにより、まったく未知の分野において熟練者の記憶を手に入れることのできる研究に関与していたようだ。

・地球の西側社会を統制する政体に対する反逆者集団“パイプライン”からジャロウ=デミーロに接触がかけられる。彼らはアシュリングという科学者を捜しており、その行方をデミーロが知っていると信じているようだ。むろん、ジャロウにはまったく心あたりがない。

・アシュリングは記憶に関する画期的な発見をし、政体の組織で研究をつづけていたらしいが、パイプラインに地球外世界への亡命を打診してきたのだという。だが、突如として行方がつかめなくなっていたのだ。

・パイプラインの面々にとっても、デミーロの中身がジャロウであることは予想外のできごとであった。アシュリングの発見に基づくある計画で、ジャロウの記憶がデミーロに移されたのではないかと告げる。デミーロが理解していた限りでは、教育機関を設けることなくあらゆる分野に熟練することを目的とした研究であったはずだが、政体は秘密裏に別の計画も平行して進めていたのだという。反政府的性向をもったデミーロに、熱烈な政府支持者であるジャロウのプロパガンダを刷りこむことができれば、反逆者を一夜にして熱烈な協力者に変貌させることも充分に可能である、と彼らは考えたのだという。

・アシュリングについての情報をなにひとつ得られなかったパイプラインの面々は、ジャロウにスパイとしてピアーズの心理学研究所に潜入し、パイプラインに向けて情報を流すように要請する。八方ふさがりとなったジャロウはパイプラインから逃げ出すために、引き受けたふりをして研究所を訪れ、政府に助けを求めるためすべてを正直に告白したのだった。

・ピアーズの計画推進者たちにとっても、彼が“ジャロウ”であることは予想外のできごとであった。デミーロの肉体をもった男は、スパイ技術の記憶をしこまれた“スーパーエージェント”コードネーム=サムライであるはずなのだが、何かのまちがいでジャロウの記憶が肉体を支配してしまったらしい。サムライはアシュリングの亡命を阻止するために、彼を抹殺する目的をもって任務遂行中に姿を消したのだという。

・ジャロウは、研究所の人々には彼を救出する気はなく、ただアシュリングの行方をつきとめたいだけであることに気づく。パイプラインの人々は無愛想だが真実を語っていた。だが研究所の人々は、親切を装ってなにひとつジャロウに真実を語ろうとはしていない。脱出を模索しはじめるジャロウの気配を察し、計画の従事者たちはジャロウに睡眠薬を服用させ、サムライの人格を注入し直すことで計画の軌道修正をはかる。



「サムライ」(第二七章~第四四章)


・アシュリングは半ば軟禁状態で政府の監督下、研究を続けていた。元来、学習の労苦をとり除き、ひとりの人間が生涯で入手可能な知識や技術の量と種類を飛躍的に増大させることによって万人の人生を実り多いものとすることを目的として始めた研究が、軍事訓練に利用されていることも気が進まなかったものの、政治的状況のためやむを得ず政府の提案を受け入れたのだ。だが次第に彼は計画に聞かされている以上の何かが隠されていることを覚り始める。政府の目的は、人間の政治的信条の再プログラミングにあるのではないのか? アシュリングは逃亡の決意を固め、科学者たちの保持する仲間内だけの隠れた連絡網を使い、宇宙圏への逃亡を模索、パイプラインとの接触に成功したアシュリングはついに脱出の途につくことに成功する。

・「サムライ」という名の合成人格に、テスト任務としてアシュリングの捕獲が命じられる。サムライはすでにアシュリングの逃亡の可能性を考慮に入れており、彼のブリーフケースに発信機をしこんでいた。アトランタのホテルでアシュリングを捕獲することに成功するが、科学者が突然の心臓発作に苦しみ始め、薬を与えた直後、サムライは意識を失う。

・ピアーズで意識を取り戻したサムライは、その後数日の時間が経過していることを知る(この間に、この肉体は"ジャロウ"として行動していた)。アトランタのホテルに残されていたメモからアシュリングの行き先を推測した彼は、任務の続行を命じられハンブルグに飛ぶ。だが地元警察の助力を得て万全の体勢で望んだにも関わらずアシュリングは彼の手をすり抜ける。地元警察の人間に向かってサムライはその無能をなじり軽蔑を露にするが、直後にアシュリングの次の立ちまわり先に関する情報が入る。

・ドイツに移動したサムライだったが、またもやアシュリングは彼の鼻先で包囲をすり抜けてしまう。冷酷に地元警察の失策をこきおろすサムライ。その有能さとは裏腹に、人間関係においてサムライは驚くべき無知無能さを露呈する。そして新たな情報に従い、移動を開始。

・連邦保安警察長官グレイジンは、ピアーズの保安部長からの密告により一部の科学者グループの暴走を知る。政治信条の再プログラミングから逸脱し、合成人格の創出のみならずその研究成果であるサムライが、こともあろうにアシュリングを捕獲するため国外に派遣されており、その上、外国の警察組織にまで協力を半ば強制する措置がとられていることに驚愕し、即時作戦中止とサムライの確保の処置をとる。が、サムライは追及の手をまんまと逃れ、アシュリングを着々と追い詰めているらしい。

・追跡の過程で、統合世界の統制が及ばない周辺諸国の無軌道ぶりを日々目にするサムライ。資源がつきかけている世界で彼らは湯水のように資源を浪費し、全く無根拠に無限の未来の可能性を信望している。苛立ちを感じるサムライ。何者かが彼の任務を妨害していることは承知しているものの、それが彼の雇い主である統合世界からの指令であることは無視し、今やアシュリングを追い詰めることに脅迫的な使命感を感じ始めている。徐々にそれは全き殺意へと置きかわりつつあるのだ。

・宇宙圏への入口であるFERの宇宙都市群のひとつへ辿りつくサムライ。アシュリングはここから宇宙圏へと亡命しようとしている。次々に襲いかかる包囲網を巧みに交わしながら進み続ける。今や彼は任務の内容もそれが重要な理由も忘れており、彼をこのようにした元凶がアシュリングだと思いこんでいた。アシュリングの殺害が全てとなっていたのだ。

・アシュリングの搭乗する連絡船に乗り込み、サムライはついに月のコペルニクスへと辿りつく。目標はいまだ確認できないが、科学者の目的地はわかっていた。ウルカノフ教授の研究室を目指し、科学研究所に潜入したが、エレベーター内で彼は催眠ガスをしかけられ、昏倒してしまう。そして次に意識を取り戻した時、<以下ネタバレにつき白字>“彼”はジャロウでもデミーロでも、もちろんサムライでもなかった。行方不明の科学者アシュリングその人であった。


「アシュリング」(第四五章~第四九章)


・研究所からの脱走に成功したのも束の間、サムライの追跡を受け、捕獲されたアシュリング。発作を起こすが薬を服用することで回復し、ピアーズへと連行される。深夜、研究所ではなくサムライの居住区画と思しき区域に辿りつく。サムライの指示で車はアシュリングが運転していたが、停車寸前にわざと事故を起こした。常人離れした反射運動でサムライは死こそ免れたものの、意識を失う。アシュリングは誰にも見咎められぬままサムライを居住区画へ運びこむが、自分の肉体がもう長くは保ちそうにないことを自覚した。もしここからうまく脱出できたとしても、宇宙圏へ生きてたどりつくことはできそうにない。ウルカノフのような科学者たちに自分の研究を委ねなければならないというのに。

・だがアシュリングは一つの可能性に思いあたる。サムライの肉体に、研究の成果を利用して自分自身の知識と精神を注入することができれば、月へとたどりつけるだろう……。幸い、サムライの居住区はピアーズの研究者であるノーデンスの実験室エリアに通じていた。アシュリングの研究を基にノーデンスが構築したシステムを使い、サムライの身体の中に自分自身を再構成することに成功する。アシュリング自身がサムライになりすますことはできそうになかったが、移植されたアシュリングの人格を一時的に不活性化することで解決をはかる。そしてサムライが公的な任務で月のウルカノフの所へ送り出されるように計画を立て、パイプラインを通してウルカノフだけにわかるようメッセージを手配する。次に目覚める時、彼はアシュリングではなくサムライとして意識を取り戻すことになる。アトランタのあのホテルで、アシュリングに薬を手渡した以降の記憶を失った状態で。
・そして再びアシュリングとして意識をとり戻した時、彼は計画通りウルカノフのもとへと辿りついている自分を発見したのだった。アトランタのホテルで最初にデミーロが、ついでジャロウが活性化したのは不測の事態だったが、結果的に全てが計画通りに運んでいたのである。

・全てを伝え終えてから、アシュリング=ジャロウ=サムライ=デミーロの記憶に混乱が発生する。記憶の上書きが安定せず、結びつきがほどけ始めたらしい。だがウルカノフは気づく。その変化は、アシュリング自身が組みこんでいたものなのだ。アシュリングは、デミーロの身体を盗むつもりはなかった。ただしばらく借りていた
<以上ネタバレ>だけだったのだ、と。


「デミーロ」(第五○章~)
・リタのもとにパイプラインのエージェントが訊ねてくる。彼女を月へと連れ出したいとの提案を携えて。

・デミーロが目をさましたとき、そこにはリタが。うれし涙を流しながら、彼女は彼に語り始める。とても、長い話を。



 ホーガンは初めてだが、なかなかおもしろかった。きっちりとプロットをつくりあげ、構成も練り上げて書いた作品なんだろうなー。
 あえて難点をあげれば、作品の冒頭の主人公として登場し、半分近くをそのまま視点人物として語られたジャロウの設定が、感情移入するにはやや体制より過ぎる感があるところか。だが構成上必要なのは明白だし、感情移入しきれないにしても物語自体の牽引力にはいささかも陰りはみられなかったし、まったく問題ないと思う。
 ホーガン作品はもうひとつ積ん読が控えている。楽しみになった。



『マルチプレックス・マン』

AMAZONリンク


※文中の画像は楽天・Amazon等へのアフィリエイトリンクが含まれます。
※この記事は2009年05月16日 21時28分21秒にアメブロに投稿した記事を転載したものです。
 またこちらへの転載に伴い、アメブロおよびBloggerのミラーサイトに掲載した元記事は削除いたしました。

関連記事

コメント一覧
コメントする


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

最新記事

カテゴリ

未分類 (0)
用語集 (1)
SF小説-海外 (18)
その他 (2)
映像 (22)
SF小説-日本 (6)

月別アーカイブ

プロフィール

青木無常

Author:青木無常
「無名戦士の黒い銃」へようこそ。
青木無常と申します。
主にスペース・オペラ、SF系の作品に対するレビューを中心に記事を書いていきます。

また、備忘録もかねて、あらすじも記載いたします。
詳細なあらすじになる場合もあり、ネタバレもがんがんしまくりますので、あらかじめご了承願います。

一応ネタバレ部分は
<以下ネタバレ>ネタバレ部分<以上ネタバレ>
のような形で括って中身の文字色を変えておきます。
必要に応じてドラッグ反転でお読みいただきますよう、お願いいたします。

ホラー・ファンタジー系をレビューする姉妹サイト「魔法使いの赤い城」もよろしくお願いいたします。

検索フォーム

リンク

著作権について

【著作権について】
当サイトで掲載・配信している文章・動画・画像の著作権/肖像権等は各権利所有者に帰属します。
当サイトに掲載されているすべてのコンテンツにおいて、著作権/肖像権等に関して問題がありましたら、メール先に御連絡下さい。迅速に対処をいたします。


本サイトでは、Google Adsense社の広告を配信しています。
このため、広告配信プロセスの中でデータを収集するために、 Cookieやウェブビーコンを使用しています。
もし、第三者にデータ送信を行いたくない場合は、ブラウザのCookie機能をオフにしてアクセスしてください。
詳しくは、Adsense広告の、公式プライバシーポリシーをご覧ください。 http://www.google.com/intl/ja/privacy.html

【管理人】青木無常 メール



以下も青木無常のサイト・ブログです。
GADGET BOX ガジェット ボックス
青木無常の創作小説サイト

ガジェットボックス マンガ館
青木無常の創作漫画サイト


見果てぬ夢をみる魔法
青木無常のブログサイト

底なしの穴を埋める魔法(を模索中)
ブログサイト更新お知らせセンター


魔法使いの赤い城
ホラー・ファンタジー系作品のレビューブログ
無名戦士の黒い銃
スペース・オペラ、SF系レビュー専門ブログ


CROCK WORKS-覚書まとめブログ【神話に出てくる固有名詞】

CROCK WORKS-覚書まとめブログ【実践心理学】

CROCK WORKS-【生活の知恵】覚書まとめブログ


PR
「小さなお葬式」
24時間365日 専門スタッフ対応
無料相談0120-926-361
↑緊急の場合にご利用下さい。


着る毛布『グルーニー』
他ブランケットウェア各種紹介


超便利グッズ!>2台のパソコン間でドラッグ&ドロップができるUSBケーブル
2台のパソコン間をドラッグ&ドロップでデータ移動可能なUSB2.0リンクケーブル「KB-USB-LINK3M」


大人の鉛筆
"鉛筆屋"の提供する「大人の鉛筆」  自分の手で文字を書く快感をぜひご堪能ください


巨大ロボットなりきりセット―にぎりこぶしと効果音
玩具、トイ、おもちゃ、ホビー、コレクション


オヤジども必見! なつかしい泉谷しげるの“吠える”アルバム ランキング
泉谷しげるのアルバムを売り上げランキング順にならべました




上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。