読書録─『モンゴルの残光』 | 無名戦士の黒い銃

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読書録─『モンゴルの残光』

読書録─『モンゴルの残光』豊田有恒/ハヤカワ文庫

馬

 ふつうの古書店で購入。よい買い物であった。これも再読で、最近再読率がかなり高い。理由はよくわからない。年をとったということなのかどうなのか。傾向としては二系統あって、1=(おもしろかった記憶はあるが)内容をよく覚えていない、2=内容(もしくは一般の評価は高いがどこがおもしろいのか)がよく理解できなかった、のどちらかになると思う。

 豊田有恒は
どちらかといえば前者の印象がつよい(ただし、ショートショートは別)。

 例によって、ネタバレ部分は白字であらすじを書く。あらすじを書くという行為は、私にとって、忘れてしまったり消化しきれなかったと感じていたりするものを改めてつなぎ直したい、という衝動の具現化です。だからあらすじなのに冗長でまとまりがないのもゆるしてやってください。





・成吉思汗(ジンギスカン)の世界征服が実現した(成吉思汗紀元)811年の異史時代、世界は、黄人(ファンレン)に支配されていた。白人(パイレン)は劣等人種として蔑まれ差別され、仕事も生活も最低限のものを強いられている。主人公シグルト・ラルセンは、恋に狂って黄人の女を殺害し、当局に追われる。つかまれば命はない。

・絶望的な状況で逃亡するシグルトは、左門と名乗る倭人に救われ、黒耶蘇(くろやそ)の一味に匿われる。彼らは黄人の目を盗んで白人のためにゲリラ活動をくり広げていた。シグルトもまた左門とともに抵抗活動を始める一方、知識の習得にも励む。

・黒耶蘇の神父を通して、きわめて厳格にシグルトに授けられた知識は、主に中世蒙古語と漢語、武宗、仁宗時代の風俗習慣などであった。その時代に生まれても生きていけるほど習熟したと冗談をいうと、神父は「そのために知識を授けている」と厳しい口調で告げる。

・ある日、左門らとともに刻駕寮を襲撃(刻駕とはタイムマシンのこと)し、刻駕の奪取に成功する。黒耶蘇の一味はタイムマシンで過去に赴き、歴史を改変することによって黄人支配の世界を覆すことを目論んでいたのである。

・だが渡航先を議論しているさなか、黄人の襲撃を受けた黒耶蘇軍は満足な反撃もできぬまま追いつめられ、かろうじてシグルトだけが過去にとばされたのだった。

・西暦でいえば1301年の蒙古高原へたどりついたシグルトは、その異相のため後の武宗である海山(ハイシャン)の軍にとらえられる。だが一軍の将であり王族でもある海山は、成吉思汗紀元811年における黄人たちのように横暴ではなく、シグルトを一人の人間としてごくあたりまえのように扱う。武宗は仁宗とともに、後の黄人支配を確定させた重要な人物である。暗殺すれば歴史はかわるかもしれないが、神父の授業では、たとえ成吉思汗そのひとを暗殺できたとしても、彼にかわる誰かが同じ役割を果たして、歴史は元のかたちに修正されてしまう恐れがあるという。シグルトは海山殺害のチャンスを幾度か見送ることになる。

・叛逆者攻略において、歴史を知るシグルトは予言を行い的中させる。海山より星卜刺(シンボラ)という名を与えられてシグルトは重用され、なぜ未来の事象がわかるのかと問われる。元帝国に潜入して歴史を変える機会を窺がおうと決心したシグルト=星卜刺は、盗み聞いた喇嘛(ラマ)僧の予言を口にしただけだと告げる。

・星卜刺は元帝国首都である大都で、海山の弟であり、後の仁宗となる愛育黎抜刀達(アイユルハリバトラ)のもとで、戦術家としての素質をのばすために訓練を受けることとなる。愛育は海山を擁立することによってかつての元帝国の栄光を再来しようとの希望にあふれた利発な少年であった。蒙古社会の中でこの兄弟と接するうちに、星卜刺は次第に彼らに魅かれ、敬愛していく自分を知り、自らに課せられた責務との板挟みに懊悩する。未来の黄人社会には、苦悩の思い出しかなかったが、この元帝国の時代において彼は、一人の人間として扱われたのである。

・叛逆をひととおり平定した海山は鬱々とした日々を過ごす。生粋の武人である彼は都での安住を喜ばず、つねに戦場にかけることに飢えていたのだ。大都において彼は喇嘛寺院を詣でることを専らにしていた。愛育は遠く西洋への長征をもって海山の飢えを癒し、大元帝国のみならず黄人そのものが世界を征することを心に思い描いていた。

・海山は皇帝に即位するが、そのために近臣より戦場への出立を戒められてしまうこととなる。皇族であり最後の敵対勢力でもある察八児(チャパル)討伐軍の副官に任命された星卜刺は、勝利のあかつきには敵将殺害ではなく和解の道を検討することを皇帝に奏上し、それを実行。現帝への復仇を胸に秘め大都へと赴いた察八児もまた、星卜刺の説諭を受け考えを次第に改めるのだった。星卜刺は察八児の妹である愛也里(アイヤルク)と夫婦となる。

・だが武宗は世界征討の途につくことなく、喇嘛寺院を莫大な工費をもって建立しはじめ、元の国庫は逼迫していく。そしてついに、愛育の思い描いた黄人共同体の理想を達成することなく崩御してしまう。歴史はいつのまにか改変されていたのだ。

・刻駕寮の駐在員に捕えられ、歴史を修正するため如何なる工作を行ったのかを拷問によって問い詰められる星卜刺。愛育の救出によって一命をとりとめるが<以下ネタバレにつき白字>喇嘛僧に皇帝は殺された」と吐き捨てる愛育の独白に、星卜刺は真相を悟る。海山と初遭遇したあの平原で、星卜刺は予言を的中させた因を喇嘛僧の言に従ったためと告げた。それが海山の心に喇嘛教への帰依心を植えつけることとなったのである。

・愛育が即位した直後、星卜刺は喇嘛寺に残された刻駕の時間通信機を介して、ヴィンス・エベレットなる謎の“時間監察官”からの接触を受ける。ヴィンスは、成吉思汗紀元とは別の未来の人間であり、“自分たちの時間”が不安定になっている原因が、仁宗が“歴史通り”に死亡しなかったためであるためとし、星卜刺に協力を求めてきたのだった。“ヴィンスたちの時間”が、白人を中心とした理想的な社会で構成されているときき星卜刺は協力を決意するが、予定の期日に仁宗=愛育が死亡するよう計らうことは考えられない。どうにか仁宗を生き永らえさせたまま、黄人支配に至らぬよう歴史を改変しようと星卜刺は暗躍するが、その策謀のひとつが皮肉なことに仁宗暗殺に結びついてしまう。賢帝を喪失した元帝国はまたたくまに凋落の途をころげ落ちるだろう。

・星卜刺は残されていた刻駕を駆って未来の歴史を垣間見る。海山、愛育を自らの手で消し去ることとなった悲哀を、ヴィンスのいう、白人の活躍する“理想郷”を見ることで希望にかえようと願ったのだ。だが未来は理想郷ではなかった。それはかつてシグルト・ラルセンが知っていたあの成吉思汗紀元の世界における黄人を白人におきかえただけの、絶望的な未来だったのだ。

・後悔の念に苛まれる星卜刺は再度刻駕を遡上させて元帝国に戻り、愛すべき蒙古の人々が発展する未来をとり戻すために再び歴史の改変を志す。が、我々の知っている“史実”のとおりに、彼は後の大明帝国を統べることとなる朱元章の軍
<以上ネタバレ>のために死を遂げるのだった。






 タイムマシンに“刻駕”なんてつけるネーミングセンスは、きわめてかっこいいよねえ。でも、このあたり時間航行技術の確立に関する記述がまったく見当たらなくって、かなり唐突ではあったな。

 概要としてはオーソドックスな“時間もの”で、特に目新しい解釈や壮大なヴィジョンとかそういうものはないのだけれど、とにかくディテールがすごい。ジンギスカン後のモンゴル、それも衰退への転換点ともいうべき、興味深くはあるが特に大きなトピックのない時代をメインにすえて、じっくりと書きこまれている。

 この作者は歴史が大好きなのだろうなと読みながらつくづく思った。星卜刺の死のシーンなど涙がにじんできた(年をとると涙腺がゆるむというのはほんとうだ)。感動のあまり、その直後のヴィンス・エベレットの場面は蛇足に思えてしまった。

 当時の風景や風物や風俗を詳細に書きこんである、というわけではないはずだ。なのに、まるで大都の風景がうかんでくるような気すらする。ふしぎだ。このディテール感が何に由来するものなのか、ぜひ分析してみたい。また読むことがあったら、そのあたりを重点的にさぐりたいと思う。

 読む機会をつくれるかどうかは微妙だが……。なにしろ老い先短いからねえ。



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※文中の画像はAmazon等へのアフィリエイトリンクが含まれます。
※この記事は2009年08月16日 11時25分00秒にアメブロに投稿した記事のバックアップです
 またこちらへの転載に伴い、アメブロおよびBloggerのミラーサイトに掲載した元記事は削除いたしました。





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