読書録─『永久帰還装置』 | 無名戦士の黒い銃

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読書録─『永久帰還装置』

読書録─『永久帰還装置』神林長平/ソノラマ文庫


銃


 よくいわれてることだと思うが、神林長平はディックの延長上にある。記憶やアイデンティティを根本から揺るがす設定や語り口は共通のにおいを放つ。さらにいえば、ディックの類似品に留まらぬ場所へ、多くの神林作品はたどりついていると感じる。日本がほこるディープなSF作家と断言してしまってよいと思う。

 あえて悪口を書くなら(長所と表裏一体の部分ではあるのだが)、細部にこだわりがありすぎる。もういいだろ、それにこだわるのは、いいから話を先に進めてくれ──と読みながら思ってしまう部分が往々にして存在する。ただ、そういう部分を除いたり簡略化すればよいかというと、むろん、断言するべくもない。神林らしさがそれだけ損なわれそうになるかもしれないおそれは多分にあるような気もしないでもない。

 本書はどちらも究極、というほどではない。読後ふかく考えさせられる結末が示されているというほどでもないし、読んでいて時々出てくる「もう勘弁して」感も特になかった。最初に提示された世界観が大きく覆されるでもなく、逆におもしろくなかったというわけでもない。感情的には満足できる結末のつけかた。どうもはっきりしない感想だが、別にうそを書いてもしかたがないし。

 古本屋だとあんまり神林作品て見かけないんだよね。『あなたの魂にやすらぎあれ』とか再読したいんだけどさ。

 以下あらすじ。ネタバレ注意、読む場合は自己責任でよろしく。




・火星の戦略情報局のケイ・ミンは、太陽系外から飛来した謎の小型宇宙機から回収された男の調査チームであるオーキー・プロジェクトの統括責任者として着任する。この時代、火星と地球は対立しており、彼はスパイである可能性も考えられた。覚醒した男は、アルファ・ケンタウリから犯罪者ボルターを追ってきた永久追跡刑事と名乗るが、人類はいまだ太陽系外に進出してはいない。そして訊問の直後、ケイ・ミンは意識と記憶の混乱を覚える。刑事と名乗る男の、意識操作を受けたのである。男は、自身が語るとおり高次存在であり、ケイ・ミンという存在を彼の目的にあわせて“再構築”したのである。

・彼が追っているボルター“フヒト・ミュグラ”は時空を超えた逃亡者であり、世界を自在に創造する能力を持っているという。ボルターは世界を創っては壊しながら逃げつづけているため、それを追跡する刑事はボルターの創造した世界に適応するため“リンガ・フランカー”という装置を頭に埋めこまれている。

・リンガ・フランカーにより存在を“書きかえられた”ケイ・ミンは記憶の混乱を自覚する。テロリストによって両親と兄を殺され、その影響で戦略情報局に入った記憶と、いまだ健在な両親とマスコミにつとめる妹がいる記憶。だが、記録上では正しいはずの、天涯孤独なケイ・ミンは永久追跡刑事に書き換えられた存在であり、彼女の部屋にいるはずの猫“サヴァニン”もまた刑事によって創りだされた“再構築”の結晶であった。刑事の能力によって現実にもさまざまな変容が現れたのだ。

・永久追跡刑事の所持品には、千年前の地球の警察手帳、拳銃などに加え、押し花のように乾燥しきっていまにも崩れそうなセロファンがあった。それはこの世界の中の存在としての彼の記憶──幼いころの彼が、姿を消した母親から最後に与えられた食事、クリームパンを包んでいたセロファンの切れはしであるそれは、彼が本来属する高次世界へと帰還することを可能ならしめる、永久帰還装置なのであった。

・所持品調査データの分析について、ケイ・ミンの部下であり監視者とも思しき凄腕のハッカー・キベーレはマグザットを使うことを提案する。戦略情報局の中枢コンピュータ使用を支援する人工知性体であり、局長であるマイダス・B・メラが構築を提案・実現した代物である。ケイ・ミンはさっそくマグザットと対話するが、警戒心を抱く。マグザットは、信用できないのではないか。

・刑事の訊問を始める。高次存在としてボルターの創造した世界を経巡ってきたという話に加え、この世界における彼の経歴として、千年前の新潟に私生児として生まれ、幼くして母に捨てられ、刑事となり、現在は火星大統領であるフヒト・ミュグラの化身である美倉不比等に銃で撃たれた瞬間に永久追跡刑事として高次存在に選ばれて復活し、ミュグラを追い続けてきたという。さらに彼はリンガ・フランカーを使ってケイ・ミンの記憶を操作したことを告げる。それによると、書き換え前の記憶にある健在な彼女の両親と妹は、再構築後である現在も存在はしているが、彼女とは無関係な他人となっているのだという。

・ケイ・ミンのボディガードとしてついていたシレノは刑事からの“精神汚染”の危険を察知し、会談の強制終了を宣言。だが刑事はさらにいう。ケイ・ミンしか知らないはずの事実──亡父の遺髪をひそかにDNA鑑定し、彼女と血のつながりがないと判明したことを口にする。ケイ・ミンをガードする必要上、プライベートも含めてシレノは彼女のあらゆる情報を熟知していたが、そのことはデータにはなかった。そしてケイ・ミンの反応から、刑事が口にした話が事実であることを察知したシレノは、刑事に対する警戒をさらに深める。彼のいっていることは、単なる狂人の妄想ではないのではないか。そして刑事はさらにいう。ケイ・ミンのほんとうの父親は、情報局長のマイダス・メラだと。

・シレノの懸念をケイ・ミンも認めざるを得ない。何らかの精神汚染が確かに存在するのかもしれないのだ。さらに、会談の一部始終をメラ局長に送るようキベーレに指示するが、何者かにインターセプトされた形跡が発見される。マグザットのしわざか。あるいはスパイか。それとも火星大統領であるフヒト・ミュグラか。

・局長から指令が入る。ケイ・ミンは解任され、プロジェクトのもう一人のメンバーであるパーンが後任に指名される。彼は暗殺者でありプロジェクトの監視者でもあるが、局長から暗号でケイ・ミンの抹殺の指示を受ける。が、シレノが敏感にそのことを察知、阻止を宣言。彼自身はケイ・ミンのガード解除の指令を受けていないことを怪しんだためであり、パーンもそれに同意、即座に実行せよとの命令を一時保留とする。そしてキベーレが、命令の発信源が局長室ではないことをつきとめる。マグザットが、ケイ・ミンの抹殺を画策したのだ。

・永久追跡刑事のリンガ・フランカーに、マグザットは受肉の可能性を見出していた。それを使って人間の肉体を乗っ取り、名実ともに火星の支配者となることを計画したのだ。刑事はそれを利用して施設からの脱出を謀るため、マグザットからの協力の申し出を受け入れる。

・ケイ・ミンをつれて脱出に成功したが、彼女の存在を再構築する行為そのものが、ボルターの行為と同じであることを認める。ケイ・ミンの記憶を、彼女自身によって正常に復させるため、本当は存在しないはずの彼女の飼い猫“サヴァニン”のところへ行くことを提案する。

・逃亡の過程で次第に彼らは互いに惹かれあうようになり、刑事はケイ・ミンのためにリンガフランカーを手放し、普通の生活に入ってもいいとさえ考え始めている自分に気づく。リンガフランカーを手に入れるためにマグザットが、あるいはボルターが、彼の思考に干渉し始めているらしい。もしかしたら、ケイ・ミンはボルターがそのために用意した存在であることも考えられる。だが今の彼女は刑事自身によって再構築されている。サヴァニンという鍵に遭遇することにより、さらにボルターからも、刑事からも干渉を受けない存在になる可能性も考えられた。

・一方、ケイ・ミンもまた自分の考えを刑事に告げる。彼はマグザットの作った人造人間ではないか、と。その可能性を否定しきれないことを刑事は認め、自分が高次存在であることを証明するため<以下ネタバレにつき白字>サヴァニンを消すと宣言。そしてたどりついたケイ・ミンの部屋には、猫が存在していた形跡がいっさいなかったのだった。

・パニックに陥ったケイ・ミンは、サヴァニンが存在していたことをどうにか証明しようと、猫の世話を頼んでいたペットシッターに連絡するが、顔見知りであるはずのペットシッターはケイ・ミンとは初対面だと告げる。悲嘆にくれ、サヴァニンを返せと要求するケイ・ミン。それを行うことによって、ボルターの創造した世界とも、刑事の再構築した世界とも異なる第三の現実が発生することになると刑事は警告する。そうなればケイ・ミンはボルター、刑事につづく第三の“自律的”な存在となるため、ボルターはケイ・ミンをも脅威ととらえ、本格的に排除にかかるだろう。後戻りはできなくなる。

・ケイ・ミンは受け入れ、刑事によってサヴァニンが戻る。訪問したペットシッターの言動から、ケイ・ミンはすでに現実が第三の相に変容していることを知る。

・同時に、リンガ・フランカーに同調していたマグザットが刑事から離れる。第三の現実が気に入らないらしい。情報面から逃亡に手を貸していたマグザットの協力が得られなくなったのだ。さらに刑事は、ボルターとマグザットとの間に何らかの関係がある可能性も示唆する。

・ケイ・ミンはサヴァニンをペットシッターにあずけ、彼女を裏口から逃す。警官が姿を現したためだ。マグザットの追及がさっそく始められたらしい。警官の顔を確認したケイ・ミンは、彼がリストにあった殺し屋であることを思い出し逆襲に出て射殺。刑事とともに逃亡を続行する。ケイ・ミンはボルターがマイダス・B・メラである可能性に思いあたり、戦略情報局を目指すことを提案。刑事もまた、ボルターを倒すことのできる武器が彼の装備品のみであることを理由に同意する。武器も、帰還装置も、戦略情報局に保管されているのだ。

・マグザットの妨害を切り抜けて情報局本部にたどりついたが、刑事の所持品はマイダス・メラに持ち出されたことを知らされる。彼は大統領官邸に向かったという。キベーレはマグザットの無力化に着々と成果をあげ始め、パーンとシレノもケイ・ミンをいまだ上司と認めていた。そのとき刑事がリンガ・フランカーにより、頭上から何か巨大な質量をもったものが落下してくる可能性を予感する。キベーレの調査で、軍の宇宙空母が暴走していることが判明。

・マグザットの偽情報のために、情報局の別班がオーキーチーム排除に乗りだすが、軍艦暴走のデータをキベーレが彼らに流すことにより衝突は回避され、さらには彼らの協力をとりつけることにさえ成功する。刑事とケイ・ミンを大統領官邸に導くべく、戦略情報局が動き出す。

・執務室で待っていたのはフヒト・ミュグラとマイダス・メラ。リンガ・フランカーによるとどちらにもボルター反応があり、揺らいでいる。脳内に埋め込まれたチップで、バックアップとしてメラ局長が利用されているらしい。ボルターはミュグラだ。彼は大統領として刑事と対応しながら、暗に取引をもちかけてくる。リンガ・フランカーを無力化するか、もしくは彼自身を高次存在へと帰還させるよう要求してきたのだ。無力化を装い刑事はメラのチップを破壊。武器を奪取するが攻撃前に護衛に撃たれてしまう。ケイ・ミンが武器を受け継ぎ、大統領に向けて発砲。護衛に撃たれるが、大統領は反撃できなかった。ケイ・ミンの攻撃が威力を発揮するとは考えていなかったのだ。ケイ・ミンが刑事の一部となっていたことを理解でかなったために。

・ボルターの意識世界にとりこまれる刑事とケイ・ミン。刑事の過去の記憶が二人の前に現れる。幼い彼を見捨てた母親。クリームパンを最後の食事として与えた母親。それを包装していたセロファンの切れ端である帰還装置は、二人の目の前に、刑事の母親の死骸となって姿を現す。

・若き日の刑事を撃った犯罪者としてフヒトが出現し、ケイ・ミンを盾にとる。だが刑事は彼の要求を拒否し、ボルターの存在そのものを消滅させると宣言。パニックに陥りながらフヒトはケイ・ミンを離し、同時に刑事の母親の死骸が崩壊しはじめる。それはすでに帰還装置ではなくなっていたのだ。

・フヒトの存在が絶叫とともに遠く、小さくなっていく。刑事はケイ・ミンを抱きしめ、きみが忘れない限りずっとそばにいる、それまで帰らない、と告げる。

・現実の火星に帰還するケイ・ミン。フヒトも刑事も死に、空母は自爆、メラ局長は引退していた。オーキープロジェクトの後始末を終えたあともケイ・ミンは、戦略情報局に在籍。刑事の死体は冷凍保存されているらしい。が、ケイ・ミンは思う。刑事は彼女とともにつねにいる。二人で創造した猫、サヴァニンとともに。彼女自身こそが、永久帰還装置と
<以上ネタバレ>なっていのだ。





 神林作品に限ったことでもないのだが、SFというものの多くは独自の世界設定があってわれわれの知っている現実を超える能力やら論理やらが作品の核となっている場合が多い。その“理屈”がわかりにくかったり、作者の意図する超越と限界をうまくのみこめなかったりすると、“よくわからない”という感想にならざるを得ない。

 本書も、ボルター、永久追跡刑事、ケイ・ミン、それぞれが世界の変容に関わる存在として描出されているが、特にボルターと刑事の能力の制約事項というのがよく理解できず、いまひとつすっきりしない部分ではある。よく理解できない部分は“そういうもの”として受け入れてしまえばよいのだが、どうも世界の創造やら再構築やら出てくると、なんでもあり感が強くなってしまうので、このへんの理屈がのみこめないと“そういうもの”として受け入れる気分がそがれてしまうのだなあ。

 かといって、図とかノートとかに書きだして精読するほどのめりこむ気にもなれない。困ったものだなあ。





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※この記事は2009年10月03日 16時22分28秒アメブロに投稿した記事を移転したものです
 なお、元記事は削除済です。

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