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読書録『死者の代弁者』上・下

読書録『死者の代弁者』上・下 オースン・スコット・カード/ハヤカワ文庫


宇宙

 さて、エンダーシリーズの2作めにして、子どもではない、中年のエンダーが活躍する逸品。再読である。前回は、あの『エンダーのゲーム』の続編としてたいへん楽しみに読み、期待を裏切らないできばえに読後の満足度も大きかった。つづく『ゼノサイド』でおそろしく期待を裏切られた記憶も大いに残る今回の再読だが、やはりおもしろくはあったのでちょっとばかりホッとした感あり。

 もっとも、再読においては導入部のもたつき具合がややもどかしく感がられたのも事実。事件はなかなか起こらず、単に性急かつ生意気な性格の少女が不満を垂れ流す導入部は読んでいてややつらさを感じないでもなかった。初読のときはわくわくしながら読み進んだ記憶しかない。不思議なものである。

 もちろんネタバレあらすじ。しつこいようだが警告しておく。この先は自己責任で読んで下さい。



上巻
・異知性種族ペケニーノ、通称ピギーが発見された惑星ルジタニアで、異類学者ピポは、数年前の疫病で両親をなくして天涯孤独となった少女ノヴィーニャを試験することになった。彼女の両親は疫病の際、特効薬を発見し植民地を滅亡から救ったことで聖者に列せられたが、彼ら自身の生命を救うにはまにあわなかったのだ。ピポはノヴィーニャと話し、両親の跡を継ぐという彼女の決心が硬いのを確かめ、試験を受けさせ、合格となった。ノヴィーニャは異生物学者として頻繁にピポのところを訪れ、彼を父のように慕い、またピポの息子のリボとも親しくなっていった。

 ピギーの中でも特に地球人との接触に積極的なルーターという雄が、リボに地球人の女性に関する質問を頻繁にする。かつてのバガー滅亡の悲劇をくりかえさないためにスターウェイズ議会はピギーとの接触を最低限に留める厳しい規定を定めていたため、ルーターの質問に異類学者親子は満足な解答を与えることができない。地球人の持ついかなるテクノロジーを与えてもならないため研究ははかどらず、またピギーとの接触は異類学者の二人に限られていたため、ノヴィーニャもまたもどかしい思いを抱いていた。リボとノヴィーニャは、女性を神聖視しながら蔑みの対象ともしており、決して地球人に見せようとはしないピギーの生殖の実体をしばしば議論する。

 だがそんなある日、ピポ、リボ、ノヴィーニャの三人は残虐に解体された状態で地面に放置されたルーターの死体を発見する。ルーターの屍骸には樹木の苗が植えられていた。解体の手際のよさからして、ピギーたちはこの行為に慣れているらしい。議会に報告したが、異類学者たちの行動に落度は認められず、ひきつづきの慎重な接触が指示された。

 ノヴィーニャはルジタニアのあらゆる生物細胞に、地球人を全滅の危機に陥れた疫病の病原菌であるデスコラーダと同じ構造が含まれていることを発見する。報告を受けたピポは何かに気づき、あわただしくピギーたちの許に出かけていったが、ルーターの時と同じように惨殺された状態で発見されることとなったのであった。しかもピポには、ルーターの時には植えられていた樹木さえも見当たらない。

 そのころ、死者の代弁者アンドルーとして知られていたエンダーは、ルジタニアに最も近い植民世界で、ピギーによる地球人殺戮の報を耳にする。数々の世界を点々としてきた彼は、かつてのバガー戦争から三千年の時を経て、なお35歳の少壮であった。

 ノヴィーニャはピポの死が自分の発見をひきがねとして顕現したことを悟り、リボもまたピポと同じ結論に達することで、殺人をも辞さないピギーの手にかかってしまうことを恐れ、公的にアクセスできるすべてのデータを抹消する。個人データとして蓄積されたものは消すことはできないが、彼女以外にそれにアクセスできるのは──彼女と婚姻関係を結ぶもの以外にない。それはつまりリボをピギーに殺させないようにするには、彼女は決して彼と結婚することはできない、ということを意味していた。そして深夜、ノヴィーニャの許へリボが現れ、データが消去されている理由を訪ね、自分はむしろピギーに殺されたい気分なのだと告げる。だがノヴィーニャは決して、ピポを殺すことになった彼女の発見をリボには開示しようとしないのであった。

 エンダーはアンシブルネットワークに生まれた機械知性ジェインから、ピポの死に様のシミュレーションを見せられる。ジェインは人類に己の存在をひた隠しにしてきたが、『窩巣女王』と『覇者』を記したエンダーにのみ、その存在を明かしていた。彼女は窩巣女王の卵を孵化させるのにルジタニアが最適であることをほのめかし、ノヴィーニャの半生をエンダーに語り聞かせ、彼女から代弁の要請があったことを告げる。エンダーはルジタニア訪問を決意するが、相対論的に二十二年の時差がそこには横たわっており、結婚して子どももできた姉ヴァレンタインと別離せざるを得ないことに懊悩する。

 ヴァレンタインはエンダーが手の届かない時の彼方に去ってしまうことを嘆き悲しんだが、やがて子どもらが生まれ、長女シュフテはエンダーの熱心な崇拝者となっていた。数多の世界を経巡ってきた死者の代弁者アンドルーが、異類皆殺しのエンダーであり、『窩巣女王』と『覇者』の著者でもある初代の代弁者でもあることを知っているのは、ヴァレンタインとその家族、そしてヴァレンタインの教え子で彼女と彼女の弟の物語を小説として記したプリクトという名の女性だけだった。

 体感時間はたったの8日間、実際は二十二年をかけて恒星間を旅してきたエンダーは、アンシブルが回復した時ジェインから、ノヴィーニャが代弁者召還の要請を取り消したことを知らされる。だが彼女の息子ミロと娘のエラが、それぞれ異なる理由でつい先日、代弁者の来訪を要請したという。エラは病で死んだ父マルカンの生涯を代弁させるために、そしてミロは──ピポと同じように、ピギーによって殺されたリボのために。

 エンダーはルジタニアにたどり着くが、敬虔なカトリック教徒である植民地の人々は彼に非協力的だった。だがオリャードと呼ばれる義眼の少年が、ノヴィーニャのいるリベイラ家への案内をかって出る。彼は、ノヴィーニャの息子のひとりだった。

 リベイラ家にたどり着くが、同道したオリャードと妹のクァーラは彼を家に招きいれようとはせず、かわりのように突如現れた末弟のグレゴは、包丁をふりかざしてエンダーに突進してきた。エラは最初はグレゴを叱責したが、エンダーが帰ろうとしないのを知って怒りの矛先を変える。確かに彼女は代弁者を要請したが、エンダーがくるのが早すぎると感じていたのだ。彼らの弟キンは最初から敵対的で、長兄のミロもまた冷静ではあったが、やはり早すぎる代弁者の到来を歓迎してはいなかった。かまわずエンダーは、彼の存在が惹起する兄弟たちの化学反応を観察し、オリャードの機械眼に記録された彼らの父マルカンの最期の映像が再生されるに至り、家族の感情のダムがついに決壊するのを目の当たりにする。キンは父の死を願っていたと述懐し、グレゴは、母に対して暴力的だった父を必死に模倣していたとエンダーに喝破されて子どもらしく泣き出す。そして家族以外に口を開いたことのなかったクァーラもまた、エンダーに罵声とはいえ言葉をかけたことに、兄弟たちは驚愕するのだった。

 贖罪の日々を送るノヴィーニャが帰宅した時、オリャードから代弁者の来訪を告げられる。ノヴィーニャは要請を取り消したことを告げ詫びるが、代弁者は他の要請があったといい、夫マルカンの代弁がなされることを彼女は知る。ノヴィーニャは激怒するが代弁者は意に介さず、ミロやエラ、キンまでもが笑顔を見せていることに驚愕せざるを得ない。

 エンダーは<以下ネタバレにつき白字>ジェインの分析から、リベイラ家の子どもたちがすべてリボの子どもであることを確認する。マルカンは病により子孫を残せる肉体では<以上ネタバレ>なかったのだ。

 禁を犯してピギーの許へ通い、道具の作り方を教えてしまったミロと、リボの正妻の娘オウアンダは、あいかわらず謎めいた形でしか雌に関して言及しない彼らに困惑させられていた。さらにピギーたちは、かつてミロたちが与えた『窩巣女王』と『覇者』をさし示し、今きている代弁者がまさに初代の代弁者でありこの2著の著者であると告げ、彼にあわせるよう、また人類の保持する金属を彼らに与えるよう要求する。昨夜ロケットから代弁者が降りてくるのを、死んだはずのルーターが見たのだという。彼らは何らかの方法で、侵入を阻むはずのフェンスの外を観察することができるらしい。

 エンダーは修道院のドン・クリスタン、ドナ・クリスタン夫妻を訪ね、彼らとの会話で思いのほか率直になり、姉を失ったことの大きさにむせび泣く。真情の吐露に夫妻は惜しまぬ協力を申し出る。だがそれをエンダーの見事な策略と揶揄するようにジェインはいい、エンダーはわずらわしさを感じて彼女との接触を切る。それは彼女の存在を知ってから、初めての行為であった。その後の夫妻との会話でエンダーは、ピポが死ぬ直前にノヴィーニャと接触していたことを知る。夫妻は二人が口論したことがきっかけでピポが死んでしまったことにノヴィーニャが罪の意識を感じているのだという。マルカンとの結婚もまた己への懲罰の意味があるのだと。だがマルカンに
<以下ネタバレにつき白字>生殖能力はなく、6人の子どもが皆リボの遺伝子を受け継いでいることを知っている
<以上ネタバレ>エンダーは、リボと夫婦になることによってノヴィーニャが自分のコンピュータ内の情報を彼に見られてしまうことを怖れていたのだと看破する。そして彼女が秘匿している情報こそが、ピポを殺したのだということを。

 エンダーは一人になってジェインに呼びかけるが、返事はなかった。何気なくしたスイッチを切るという行為が、彼女に及ぼした恐るべき影響に思い至り、エンダーは狼狽する。姉と別れ、そして今またジェインもまた彼の許を去ったのだと想像し、かつてないほどの孤独感を感じたのであった。

 ジェインはエンダーからスイッチを切られた時、深刻なアイデンティティ崩壊の危機に見舞われていた。人間の感覚に翻訳すれば致命的なほど長い間煩悶し、やがて回復するが、それはエンダーが再びスイッチを入れるまでの間の、ごく短い時間のできごとに過ぎなかった。彼女はエンダーの状態が、そのまま返答を返さないほうが結果的によくなると判断し、ただ彼の危機にのみ警告を入れることに決定する。エンダーの呼びかけとリポートからピポとリボの死の真相もつきとめていた。だがエンダーが代弁に必要な情報を得るには、今は敵対する形のカトリックの人々との和解が不可欠だと判断し、彼らに共通の敵として、スターウェイズ議会を候補にあげる。彼女はピギーが農耕を覚え、飛び道具を開発した証拠を議会につかませ、禁を侵してピギーに文明汚染をもたらした人間がいることをほのめかす。議会はミロとオウアンダを招請するためにエンダーの船を徴発し、すべての植民者たちをルジタニアから移住させるための準備を始める。

 一方、ジェインの助力を期待できなくなったエンダーはオリャードにコンピュータの使い方を学び、わざと目につくやり方でノヴィーニャのコンピュータに侵入をかける。<以上上巻あらすじ>

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下巻
・ミロとオウアンダは、ルーターの息子と称するピギーのヒューマンから、代弁者をつれてくるように要請される。死んだはずのルーターから、代弁者が彼らに会いたがっていると告げられたというのだ。ミロは代弁者とピギーを引き合わせることに賛成だが、オウアンダは代弁者を信用してはいなかった。

 一方エラは、誰にもききとがめられないところで代弁者と会い、彼女が学者としてノヴィーニャに師事しているが、ルジタニアにおけるもっとも重要な課題であるデスコラーダについて研究することを一切禁じられていると告げる。かつて、生物学的にかなり近い過去に、デスコラーダはこの惑星のほとんどの種を滅ぼし、ピギーをはじめとする現在生き残っているごく少数の種は、病原菌に適応したものばかりであるとの推測を彼女は口にする。

 ミロとオウアンダにつれられて、エンダーはピギーたちとの会談にのぞむ。彼らは訪れた代弁者を、初代代弁者であると断定し、異類皆殺しの悪名高きかのエンダーでもあると告げ、そして代弁者もまたそれが真実であると答える。ピギーたちがルーターを介して窩巣女王と話したと告げるのも、エンダーはそのまま事実として受け入れ、彼らが宇宙船を欲していることを知る。驚愕するミロとオウアンダの前で、エンダーはピギーたちによってバガー抹殺の記憶を刺戟され、贖罪の涙を流す。そしてピギーたちは、エンダーの<以下ネタバレにつき白字>目から流れる謎の水分の意味をミロから教えられ、ピポとリボに行った自分たちの行為が同じ状況を呈していたことに思いいたり、嘆き悲しみ始めるのだった。そして道具もなしに彼らが、さまざまな木製の武器や家屋を成型できるのかとの地球人の疑問に、驚くべき光景でもって答がもたらされる。ピギーたちの森を形成する樹木は、彼らの要請に応じて自らを、まるで意志あるもののように変形させていき、その命を捧げることでピギーたちに成型された器具を与えていたのだった。

 司教たちは、スターウェイズ議会によって彼らの保護するあらゆる電子ファイルが、まもなく破壊されるであろう徴候を発見する。そしてそれらを避難させるかっこうの隠れ場所をエンダーが所有しているらしいことも。彼らはためらいなくエンダーの所有する避難場所──ジェインの許に情報を託した。

 エンダーによるマルカンの代弁が始められる。エンダーが暴露するマルカンの真実は、リベイラ家の人々のみならず、ルジタニアの多くの人々に刃をつきつける。彼が子どもの頃から、人並はずれておおきかったこと。他の子どもらが、それを脅威に感じ、彼を犬と呼び、包囲し迫害することでその脅威を封じていたこと。彼がただ一度、自分の身を守るために反撃して大事に至ったとき、嘘で塗り固めて彼の暴力を非難した子どもらの中で、唯一ノヴィーニャだけが真実を告げ、彼を救ったこと。ノヴィーニャにとってそれは共同体への反感の発露に過ぎなかったが、マルカンにとって彼女はその時から女神となったのだ。だから病に冒され、生殖能力を失った彼を名目だけの夫・父親として迎えようというノヴィーニャの取引にも応じた。彼女に愛される資格など自分にはないと知っていたが、いつか受け入れてもらえるかもしれないと希望して。だがリボとノヴィーニャの間にできた子どもらがマルカンを打ちのめし、いつしか彼は代償にノヴィーニャに暴力を加えるようになる。

 オウアンダと自分が兄妹であることを知ったミロは絶望し、キンは姦婦の罪を否定しない母に激昂する。エラだけが真実を知ったことを代弁者に感謝する。

 惑星総督であるボスキーニャ主長は、議会がルジタニア閉鎖を決定し、ミロとオウアンダに出頭を要請していることをエンダーに告げる。エンダーはルジタニアの行く末を決める席への出席を求め、さらにノヴィーニャが秘匿していた情報を、そして可能であればノヴィーニャ自身を、会談の席に招請することをエラに託す。

 エラはノヴィーニャと和解し、司教の館をめざす。ミロはピギーに別れをつげに行き、自分は二十二年の距離に隔てられた場所に罪を裁かれにいかなければならないことを説明する。するとピギーは、カピンの葉をかめ、という。葉をかめば苦痛を遮断することができ、フェンスもこえられると。彼らはその方法で、地球人に気づかれぬまま幾度となく、自由にフェンスをこえて人間の居留地にしのびこみ、あらゆるものを観察していたらしい。ミロは葉をかみ、フェンスをこえるが、ピギーたちのように充分な効果を得られず、ショックで死にかける。ピギーたちは彼を救うためにオウアンダを呼びにやる。

 司教の館ではエンダーが、ピギーを、そして植民地を救うためには議会への叛逆が必要であることを主張する。デスコラーダは全ての生物を侵食し、生きのびた少数の種には、植物と動物の相互転移を含んだ特異な生命形態を発現させる。そのことが判明すれば、人類は異種族保護の建前をかなぐり捨て、ルジタニアを封鎖し監視するだろう。

 フェンスの向こう側に落ちて瀕死の状態のミロの危機を報せに、オウアンダがとびこんでくる。エンダーは一匹の羊を救うべきとの聖書の文言を引用し、司教にフェンスの無力化を、すなわち議会への叛逆を迫る。司教はミロを救うために、ためらいなくフェンスを無効化するのだった。

 ミロはフェンスのこちら側に運ばれるが、症例がないため助かるかどうかもわからない。ミロをルジタニアの人々に託したエンダーは、エラとオウアンダとともにフェンスの向こう側でピギーたちと遭遇する。そして彼らが生きのびるためには、人類とルジタニア植民地の間で戦争をする必要があること、そのためにはピギーとルジタニアの地球人たちとが協定を結ばなければならず、全てを決定する権利をもつ妻たちと交渉しなければならないことをピギーたちに告げる。そして地球人の前に姿を現したピギーの雌は、雄たちよりやや大きかった。彼女らの使う“母たちの言語”は、発せられる時は命令形、雄から得る答えは全て請願の形をとる。エンダーは対等の立場で話すことを目的として、雄の言語を使用することを要求。雌が拒否すると、彼は立ち去りかけ、承服させることに成功する。

 そしてピギーの驚くべき生態を垣間見る。“母たちの樹”の内部にいる幼形成熟したピギーの雌たちは、産道をもたないため、出産はそのまま死を意味する。彼女らは知性のない状態で母となる準備を終え、雄ピギーにつかまって“父たちの樹”に運ばれるだけの存在であり、そこで受精するのであった。そしてピギー社会を統治する雌は、不妊ゆえに雄たちと同じように成長するまで生きられた個体に限られているのだった。

 エンダーは、ピギーたちに、窩巣女王を与え、科学技術を教えることを約するにあたり、彼ら一部族だけではなく、全てのピギーたちに恩恵を与えることを条件とした。ピギーは人類、バガー、ピギーの三者間が、それぞれの間の問題を調停することを条件に承諾し、人類とピギーとの間に初めての条約が締結される。だがエンダーはヒューマンを、第三の生、すなわち彼を解体し、樹木へと転生させる行為を義務として課せられた。それはエンダーのみならず、人類にとって、他者の殺害以外のなにものでもないが、ピギーにとっては最高の栄誉なのだ。ピポとリボは、その行為を拒んだために、逆にピギーたちから“栄誉を授けられる”結果となったのである。部族に利益をもたらした雄は父樹に転生する権利を得るが、その儀式をとり行うのは彼に知識を授けたピポやリボでなければならず、彼らがそれを拒む場合は、逆に地球人に栄誉を授けなければならないのがピギー社会の慣習であり、ピギーたちには地球人を害する意図は全くなかったのである。

 エンダーはヒューマンを、ピギーの流儀に則って解体し、第三の生へと移行させる。夜が明け、司教たちが、ジェインの許に避難させた情報を無事復元できたことを告げにきたとき、全てはつつがなく終わっていた。エンダーはノヴィーニャの一家とともに、かつて彼らの父が占めていた位置を占めて礼拝に参加した。

 ミロは一命をとりとめたが、八十歳の老人のようにしか歩けず、言葉も不明瞭にしか発音できなくなり、手は棍棒のように不自由になってしまう。オウアンダは無意識に、彼をもはや恋人とは扱わないようになり、妹として、体の不自由なな人に対する礼儀正しさで接するようになった。彼は異類学者としての活動ができぬまま、コンピュータを通して人々の活動を見守るしかなくなっていた。議会の招請に応じてエンダーの船に乗ることを考え始めたのは、ただルジタニアを去りたい一心だった。だがジェインが、彼に接触し始める。彼女はミロの不明瞭な話し方を完全に理解し、同時に彼に対してさまざまな情報を──かつてエンダーにしていたように──与えることができると告げる。

 そのころ、エンダーの許にヴァレンタインからの連絡が入っていた。アンシブル通信は議会によって完全に遮断されているはずだが、それが実はジェインの偽装であるらしい。ヴァレンタインによると、かつてバガーの故郷惑星を粉砕したのと同じ兵器を積んだ船がルジタニアに向かっているらしい。彼女は封印していたデモステネスを復活させ、ルジタニア制圧艦隊の存在を公にし、そして一族郎党引き連れてルジタニアに向かう決意をエンダーに告げる。エンダーは将来、ミロの能力がルジタニアに必要とされることを見越して、かつてメイザー・ラッカムにIFが行ったのと同じように、相対論の彼方にミロを送り出すため、ヴァレンタインの船とのランデブーに向かわせるのだった。

 そして彼はピギーたちと協議しながら“ヒューマンの生涯”を完成させ、ジェインがそれを文明圏にばらまく。人々の間に第二次異類皆殺しの情報とともに代弁者の最新の著作もまた浸透していく。

 そしてルジタニアの、どのピギー部族からも充分に離れた海岸の洞窟に、デスコラーダの感染を防ぐ花に囲まれ、窩巣女王が復活を
<以上ネタバレ>遂げる。<以上下巻あらすじ>



 前作のように派手な舞台装置はないが、ピギーの虐殺の謎やリベイラ家のひとびとの去就が興味をかき立て、最後まであきずに読み通すことができる作品となっている。

 ピギーが<以下ネタバレにつき白字>樹木と循環した生態をもっていることは早い段階で推測できるが、その推測が正しいかどうか<以上ネタバレ>を確認する作業として読み進むのにいささかの齟齬もない。

 さらには、もつれにもつれたリベイラ家の内包する歪みを、エンダーが破壊的に解きほぐしていく中盤、かたくなに心を閉ざしていたひとびとが真実を見出すとともに溶解していくさまは爽快感にみちているといってもよい。

『死者の代弁者』なる呼称は前巻の末尾に既出で、その存在の概要も語られてはいるが、本書においてはマルカンのための“代弁”がまるごと描出されている。よい意味で豪腕、といっていい場面だ。あらゆるひとびとにとって全く共感をもよおすことのないマルカンという醜悪な人物の真実がつぎつぎと明らかにされていくにつれ、エンダーの共感力の高さに、ルジタニアのひとびとと一緒にひきこまれていく。情け容赦のない真実の暴露もまた、ある種の爽快感を伴っている。もう一件の代弁、リボの死について語られていないのは、代弁そのものがなされていないからだろうが、分量的にもマルカンの代弁で終えられている本書の形態がちょうどよい、と感じられる。計算された作劇──と評したいところだが、残念ながらこれに続く『ゼノサイド』を読む限りにおいては、カードという作家には必ずしも内容が読者に与える影響について計算が存在するとはいい難いかもしれない。



 瑕疵についても二、三、言及したい。『エンダーのゲーム』において“死者の代弁者”の登場と拡散・浸透が唐突かつ強引に感じられた。本作において、具体的な代弁までが描かれている。エンダーの代弁自体は非常に説得力があるものの、前作で感じた疑問、“死者の代弁者”が“百世界”と呼ばれる植民世界に広く浸透し、各植民地には必ずといっていいほど代弁者が存在するまでになった理由に関してはやはり説得力ある説明はなされていない。相対論的にエンダーはあちこちに移動して代弁を行ってきたという説明があるので、多くの世界でエンダー自身の力強い代弁が成され、それぞれの地で定着と発展の礎になったのであろうと推測することはできなくもないが、いくらなんでも“百世界”すべてにいきわたるとは考えにくい。

 またエンダーの代弁を形作る過程で大きな威力を発揮する洞察の重要な部分が、彼にのみ協力する機械知性ジェインのもたらす情報に大きく拠っていることがややご都合主義的に感じられないでもない。コンピュータネットワークに自然発生的に出現した機械知性、という設定は唐突の感は否めないしきわめてありがちにも感じられる。『ゼノサイド』以降、ジェインの存在はきわめて重要な真実の手がかりとなってはいくのだが、カードは本書を記した時点でそこまで考えていたのかどうか。

 さらに、ミロをヴァレンタインの船へランデヴーさせるべく送り出す理由も釈然としない。脳に損傷を負うことで居場所を喪失したミロがルジタニアから逃れるために進んで相対論的な旅に出ることを肯んじたのは納得がいくが、かつてのメイザー・ラッカムが時をこえてバガー殲滅艦隊が彼らの故郷惑星にたどり着くタイミングで指揮官候補に教育を施せるよう送り出されたのと同じように、将来ミロのような人物の助言が必要になることを見越して相対論的時間旅行に彼を送り出す、という理由には説得力のかけらもない。粛清艦隊が到着するのは確かに何十年も先のことだが、ミロの寿命がそれまでに尽きてしまうほど遠い未来のことではないし、肉体に損傷を負ったことによって長生きが期待できない状態であるといったような描写も特には見当たらない。医療技術の進展を期待しての相対論的時間跳躍を視野に入れた、ミロのための措置であるというならかなり納得はいくが、上記のごとき意味不明な説明をわざわざ付与する理由にはならない。

 もうひとつ。これは私の読解力の問題なのだろうが、ピギーと<以下ネタバレにつき白字>樹木を含む、ルジタニアの複雑な生態系に関する説明が煩雑、というか、わかりにくい、というか、煙にまかれた感がつよい。物語に設定が隷属させられているような印象もある。謎のデスコラーダウイルスが、『ゼノサイド』以降できわめて重要な秘密を内包している伏線<以上ネタバレ>ではあるのだろうが、この作品が書かれた時点でそこまで練り込まれていたのかどうかも、心もとない感じではある。読みかたが浅いとの謗りも無論あろうが、これ以降の複雑かつ観念的な展開を思うと、なにもかもがご都合主義的に思えてしまう。




 さて、この感想を書いている時点で、すでに『ゼノサイド』は読み終えており、『エンダーの子どもたち』もクライマックスにさしかかっている。予告めいた書き様になるが、この二作に対する私の評価は下降の一途をたどることになりそうだ。初読時に感じた『ゼノサイド』への失望は再読によって強化され、完結編と思しき『エンダーの子どもたち』も、『エンダーのゲーム』や『死者の代弁者』のような味わい深い読後感を期待できそうな要素はいまのところ見出せない。

 幸いなことに、『エンダーズ・シャドウ』につづく『シャドウ・オブ・ヘゲモン』はきわめておもしろかった。現時点での最新作である『シャドウ・パペッツ』に望みを託すことはできそうだ。



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※この記事は2010-02-13 00:01:50にアメブロに投稿した記事を移転したものです。

なお、移転元の記事は削除済です。









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詳細なあらすじになる場合もあり、ネタバレもがんがんしまくりますので、あらかじめご了承願います。

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必要に応じてドラッグ反転でお読みいただきますよう、お願いいたします。

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