読書録『エンダーズ・シャドウ』上・下 | 無名戦士の黒い銃

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読書録『エンダーズ・シャドウ』上・下

読書録『エンダーズ・シャドウ』上・下/オースン・スコット・カード/ハヤカワ文庫


space shuttle

 三読めだが、おもしろい。エンダー以上に非人間的な洞察力を発揮するビーンの来歴。『エンダーのゲーム』の中でもビーンは出色の存在感をかもし出していたが、やはりこのキャラクターは主役を張ってもエンダーに匹敵する。エンダーに欠けている圧倒的な能力を持ちながら、指導者としてエンダーには及ばないと感じつづける彼の内面も克明に描写されている。

 ではいつものごとく、ネタバレあらすじ。読むなら自己責任でな。



上巻

・ロッテルダムの路上で、飢え死に寸前の浮浪児となった幼児のビーンは、小さな浮浪児集団の女ボスであるポークに目をつけた。彼女もまた年端もいかず、目先もきかないために、彼女の一団は餓死の危機に瀕していたが、それだけにビーンのような幼児のいうことにも耳を貸すだろうと考えたのだ。ビーンは、もっと年長のいじめっ子のひとりを全員で襲っていうことをきくよう強要し、配給所で他のいじめっ子たちへの牽制役をやらせるよう提案する。通常、配給所では彼らのような幼い子どもたちは、年長のいじめっ子たちに弾き出されて中に入ることすらできず、ボランティアの大人たちもそこまでは目がいき届かないのが現状だった。ポークはビーンの案を受け入れ、ポークから6粒のピーナツを手に入れることでビーンは目先の餓死から免れる。

 だがポークは、アシルという、いじめっ子の中では最低ランクの、体の小さく足に障害のある少年を選んでしまう。ビーンの想定していた標的は図体ばかりがでかくて頭はからっぽといった手合いだったが、作戦は開始されてしまった。アシルは子どもたちに強襲され抵抗する間もなく制圧されてしまい、ポークから出された提案に乗る。だが意外なことにアシルは彼らを家族と呼び、彼らの行為を賞賛さえしたのだった。そしてアイディアを考えたのは誰かと問われ、ポークは思わずビーンを見てしまう。アシルが油断のならない、危険な人間であることを見抜いたビーンは、彼を殺すようにポークに進言するが、機会を逸したポークを尻目にアシルはたくみに子どもたちの心を掌握し、手のひらいっぱいのレーズンを、もっとも幼いビーンのためにさしだしたのだった。

 アシルのもとで入念にリハーサルを重ね、計画は実行に移された。手に負えないほど強くもなく、かといって抑止力とならぬほど弱くもないターゲットとしてアシルは、ふだん見かけないよそ者であるユリシーズを選ぶ。配給所に並ぶターゲットの目の前に子どもらを割り込ませ、文句をいい始めた彼を全員で襲い、肋骨がばらばらになるまで痛めつける。さらにもう一人の生贄を叩きのめした時、配給所は開き、幼い子どもたちは席を確保することに成功する。彼らはスープだけを飲み、パンは食べずに持ち出してアシルに献上した。だがアシルはポークとビーンのパンには手をつけなかった。やはり彼は、彼に屈辱を味わわせたポークと、彼を殺せと進言したビーンを許さず、排斥の第一歩にとりかかったのだとビーンは推測する。

 ビーンは危険を回避するために、次の日の配給所で、他のいじめっ子に、家族はどこにいるのかと問うてみせた。いじめっ子が家族を持ち、彼らを守ることで配給を優先的に得ることができるようになれば、アシルの家族に及ぶ危険もそれだけ小さくなるだろう。予見は成功を呼び、アシルにビーンのパンをかじらせることにも成功する。

 一方、<国際艦隊=IF>へ優秀な子どもを斡旋するシスター・カーロッタは、配給所の文明化の陰にアシルとビーンを見出し、彼らの様子を観察し始める。子どもらに教育を施してみるが、ビーンはそれらしい反応を示さない。だがすぐにそれは彼が極度に用心深いためであることを知る。テストを配った時、うっかりしてビーンは無意識に解答を記入し始めてしまったのだ。字を読めることが知られてしまったことにより立場が一気に悪化したビーンは、一旦はグループから離れたのだが、ユリシーズが回復して戻ってきたことを知り、警告に戻る。アシルはビーンの忠告を受け入れたように装い、姿を隠した。だがその夜、ポークが子どもたちに何も告げずに出かけるのを目にしたビーンは跡をつけ、彼女がアシルと会って抱き合い、キスをし、何かを話している光景にいきあたった。危険はないと一度は判断してその場を後にしたが、すぐに、ポークはビーンを守るためにアシルと取引したのだということに思い当たり、現場に戻る。だがビーンが見つけたのは、海に浮かぶポークの死体だった。

 シスター・カーロッタは、アシルが姿を隠したためにまずビーンにIFの試験を受けさせる。最初は気乗りしない様子のビーンだったが、指揮官として宇宙艦隊にいけるかどうかの試験だときいたとたん、驚くべき能力を披露し始める。だが彼が望んだのは、ただアシルのいないところへ行くことだけだった。アシルもまた候補生であることを知ると、ビーンは頑強に宇宙にはいかないといい始める。ビーンから事情をききだしたカーロッタは悩む。IFが欲しがるのは、アシルのような奸智に長けた者だと知っていたからだった。

 ビーンは引き続きカーロッタの下で教育を受け、同時に己の過去を思い出していく。彼は“クリーン・ルーム”と呼ばれる部屋で、他の大勢の赤ん坊とともに何かの実験を受けていたらしい。が、やがてその施設は閉鎖され、生命の危険を感じてトイレのタンクに隠れたビーンだけが、発見を免れ、掃除夫に救われたのだった。

 ビーンは地図の読みかたを覚えると、カーロッタの目を盗んでクリーン・ルームの探索に出る。だが彼を救出した掃除夫を見つけた時、警官を従えたカーロッタが姿を現す。彼女はビーンをわざと泳がせていたのだ。だが問題の施設はすでに跡形もなくなっており、当時入居していた会社もダミーであることが判明、手がかりは途絶えてしまう。

 やがてビーンはバトル・スクールに入るとことになりシャトルに搭乗する。機上でビーンは、ディマクという教官によって最上位の成績をとったことを暴かれ、いわれのない敵意の的となる。スクールに到着、ビーンは観察する。周囲を、ことに、大人たちを。トレーニング・ルームを見学し、食事を終えるとビーンは教官の指示を無視して探索に出る。上級生のいる区画でぺトラとディンクに出会い、彼の行っている探索行など教官には把握されており、マイナス要素ととられかねないことをぺトラから告げられる。無論ビーンも制服で位置把握されている可能性には思い至っており、特にぺトラの忠言に耳を貸す必要を認めず、新入生区画に案内してくれるというぺトラをまいてさらに探索を続行。ゲーム室のパネルを外し、ダクトに侵入できることを確認してから居室に戻ったが、それでも新入生は全員戻っていたわけではなかった。探索に要したのは二十分程度といったところだ。またビーンは二人分のデスクにログインし、ビーン名義の他にポークという名前でのアカウントを確保した。ディマクは人数以上のアカウントが作成されたことに気づいたはずだが、何もいわなかった。

 翌日、探索行の折に上級生たちからたびたび耳にしていたエンダー・ウィッギンについて探る。彼の敵と公言するボンソーから、エンダーに関する歪んだ風評を引き出し、記憶に留める。

 グラッフはビーンが日記に記したアシルの名前に注目し、シスター・カーロッタに詳細を問い合わせる。カーロッタはアシルがポークを殺害したと思われることのみを告げ、具体的な情報は与えない。

 ある日、生徒全員にパスワードの変更が命じられる。ビーンのハッキングがばれたらしい。そしてディマクはビーンの行動目的がわからないために彼にそれを問いただす。ただ生き残るために情報を収集しているだけのビーンだったが、ディマクとの会話である事実に気づく。第二次バガー侵攻の際、彼らを打ち負かしたIFはすぐさま敵の故郷惑星を攻撃する艦隊を送り出したはずだと指摘すると、にわかにディマクの態度が変わったのだ。ビーンは、戦争はすでに終わっていて、彼らがスクールに集められているのは、単に地球の各国政体が争いを始めた時に、優秀な指揮官が供給されないようにするためだと推測する。だがその目論見はうまくいかないだろうとビーンは考えた。目標が変化する。将来起こるはずの地球での争いで、ここにいる誰が敵になり誰が味方になるのかを見極めること。そのためには、今までのように超然と孤立しているわけにはいかなった。たまたま話しかけてきたニコライという少年と親しくなり、やがて交流の輪が形成される。その中心にはいつも、ビーンとニコライがいるのだった。

 カーロッタはビーン誕生の手がかりを握る科学者と面談する。彼は多くを語らない。何者かによって、機密情報を明かそうとするとパニック発作を起こすよう条件付けされているらしい。だが宗教談義に偽装して、彼がカーロッタになんとか情報を伝えようとしていることに気がつく。サヴァンは驚異的な能力を一点のみ発揮できるかわりに、生活力などの他の能力が欠落している。そして聖書においても、知恵の木の実か生命の木の実かの二者択一が語られている。恐るべき知能を与えられたビーンは、永遠にエデンを追われた。彼の寿命は、長くはないだろう。

 ビーンはある夜、生徒たちが寝静まると、ダクトを伝って探索を始める。教官の私室を発見し、ディマクとグラッフの会話をもれきく。どうやら彼らは、ビーンが遺伝的に人類をこえた脅威的な存在である可能性を不安視しているらしい。衝撃を受けつつも事実を受け止め、さらにビーンは別の教官がログインする場面をとらえ、パスワードを入手する。そして大人たちが自分を脅威と見なさないようにふるまうための指標として、エンダー・ウィッギンを選定する。

 勉学し、訓練に励み、上級クラスへと常識外れのスピードで進んでいきながらエンダーの分析を続け、彼こそが指揮官たるべき人物と確信するが、ビーンにはエンダーの利他主義が理解できない。また、バトルスクールに優秀な生徒が集まっているのは事実だが、教官たちが指導者として必ずしも的確ではないことにも気づいていく。彼らの目にとまらなくとも、優秀な生徒はたくさんいたのだ。

 一方シスター・カーロッタは、ビーンの痕跡を掴む。彼の遺伝的父親を自称する男を発見した。極秘裏に廃棄されたプロジェクトを勝手に継続させた男ヴォレスキュは、自分の胚をもとに23人の子どもを誕生させたという。だが結局政府によってプロジェクトは発見され、22人の赤ん坊が安楽死させられた。そしてもし、残りの一人が生きのびていたとしても、脳と同じように、リミッターを外された肉体は無制限に成長を続け、巨人となって早死にするだろうという。

 スクールでは、ディマクがグラッフから宇宙戦闘に関する論文を見せられる。ビーンの書いたものらしい。教官批判の部分を引用し、たしかに教官としての資質に疑問の多い輩がその地位についている現状を認めてグラッフは、それを補う意味でも、エンダーに与える部隊をビーンに選ばせるよう告げる。ディマクから“宿題”を与えられたビーンは、エンダーの自主練に参加している生徒は彼に重用されるだろうと推測。自分自身がエンダーの目にとまらないことを恐れてリストから彼らを外し、新入生と、トレード要請の出ている古参兵のみを選出。自分とニコライを含めた40名のリストを作成する。

 だがそのリストどおりに実現した新部隊─ドラゴン隊─が稼動した日、ビーンはエンダーが、学校一成績優秀で頭脳明晰なはずの自分のことを、歯牙にもかけていないことに直面させられるのだった。<以上上巻あらすじ>


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下巻

・エンダーとの初訓練で、エンダーはビーンの炯眼をことさら他の生徒たちに見せつけることによって、彼らの憎悪をかきたてる。無意味な扇動に憤りつつ、ビーンはセッションの後にエンダーを呼びとめ、自分を小隊リーダーに抜擢するよう進言するが、エンダーは感銘を受けた様子もない。

 シスター・カーロッタは、ヴォレスキュが嘘をいっていたことをつきとめる。ビーンはヴォレスキュのクローンではなく、ある夫妻が不妊のためストックしていた受精卵を勝手に盗用して着床させたことにより生まれてきたのだった。そして<以下ネタバレにつき白字>その夫妻にはバトル・スクールに入った息子がひとりいた。彼の名は、ニコライだった。

 ドラゴン隊の初戦闘が命じられた日、ビーンはエンダーに、逃避している姿を目撃されてしまう。ニコライのとりなしでエンダーの心証は多少はよくなったようだが、醜態をさらしてしまったことにビーンは懊悩する。戦闘は圧倒的勝利に終わり、ビーンも活躍を見せたが、失態を補うほどとは思えなかったのだ。そして帰途、ビーンはボンソーを無用に挑発してしまう。エンダーを危険にさらしてしまったのだ。

 ドラゴン隊は異例の連戦にことごとく勝利し、代償に疲弊する。ある夜、ビーンがコンピューターを開くと、エンダーから「すぐこい」のメッセージが。消灯10分前だったが、ビーンはあわててかけつける。そこでビーンはエンダーが、スクールの成績ではなくこれまでの実戦での働きにおいて、彼を高く評価していることを知る。各隊よりビーンを除く兵士を計5名選ばせ、独立部隊としていざという時にビーンの号令のもとで自由に動けるように託される。同時にエンダーは、ほんの少しではあったが、その心情をビーンに垣間見せていることに気づくのだった。ビーンはエンダーのために戦うことを決意する。スクールの成績のためではなく、対バガーとの戦いのために。そしてエンダーの命を守るために。さし迫った脅威は、ボンソーだった。

 物資調達を口実に訪れたグラッフの部屋で、ビーンは二人の教官が、彼を巡って口論しているのを盗み聞く。ビーンはメンテナンス作業員が使う細く頑丈なコードを手に入れ、それを使って驚異的な方向転換や加速が可能なことを発見する。だが練習を終えて宿舎に帰る途上、ボンソーの息のかかった生徒たちが姿を現した。ぺトラが、まずいタイミングでエンダーに声をかけ、立ち止まらせようとする。ビーンには彼女が、エンダーの敵たちに彼をとり囲ませるために協力しているようにしか見えない。仲間に警告を発してエンダーを護衛させ、更にはラビット隊の宿舎にとびこんで助けを求める。脅威は去った。ひとまずは。

 翌朝もバトル。しかも敵は凍結されても、しばらくすれば自由になるようにルールが改変されていた。エンダーたちは一度凍結されると、バトルが終わるまでそのままである上に、そのことを知らされてさえいなかった。かろうじて勝利できたが、あまりの長時間のバトルに朝食の時間は終了していた。

 部屋にこもったエンダーをあとにして、昼食時にビーンは食堂で、敵に牽制を加える。違法な命令に従った者はバトルスクールから弾き出されると。効果は定かではなかったが、少なくとも衆目を集めたのは確かだった。だがその間に、事態は進行していた。シャワールームでボンソーがエンダーを襲い、エンダーはそれを返り討ちにしていたのだ。ビーンたちがかけつけた時、ディンクに肩をかつがれたエンダーが出てくるところだった。ビーンはごった返す教官たちの間をぬってルームに侵入し、ボンソーが死んでいるのを目撃する。

 宿舎に戻ったビーンたちのもとに、生気を失った様子のエンダーが現れる。この期に及んで、本日二回目のバトルの命令が下されたのだ。しかも相手は2隊。集合を命じ、立ち去るエンダーの後頭部は、ボンソーの血で汚れていた。皆が気づかぬふりをして軽口を叩きあう。ルームに集合すると、エンダーはビーンの部隊に偵察を命じ、さらに彼は自分自身を凍結して盾となり、作戦を告げてビーンに全てを託す。ビーンは自軍の小隊4名を使ってドアの四隅にヘルメットを押し付けさせ、残る1名に敵軍のゲートを通過させる。敗北寸前の状態で、彼は強引に勝利の儀式を遂行したのだ。

 が、エンダーは無感動だった。宿舎へ帰ったビーンたちに転属命令書。ドラゴンの全てのリーダー・副リーダーたちが昇進し、それぞれの指揮権を与えられていた。無論、ビーンも。

 ビーンはエンダーの許を訪ね、報告するが、彼は関心を示さなかった。ボンソーを傷つけ、おそらくは殺してしまったことに、彼はひどく傷ついていたのだ。そんなエンダーのところへ、グラッフが現れ、エンダーのコマンドスクールへの転属が告げられる。

 指揮官用食堂を訪れたビーンは、ランキング廃止を各隊長に進言する。最初は疑念を拭い切れなかった指揮官たちも、敵は生徒たちではなくバガーだとするビーンの主張に徐々に賛同し、ディンクの提案で教官にランキングの廃止を進言することに決まったのだった。

 だがビーンは、隊長に任命されたラビット隊の宿舎で驚くべき事実を目撃する。新入生でありながら隊に配属されてきた少年は、アシルだった。

 ビーンはアシルを罠にかけてダクト内で身動きできない状態に追いやり、かつて彼が犯した殺人を全て自白させる。アシルは嬉々として今まで自慢したくともできずにいた己の所業を並べたて、地球に送還それることになったが、彼を殺さなかったことでビーンは後悔することになるだろうとほくそ笑むのだった。

 指揮官に就任してわずか数日で、ビーンはタクティカルスクールに進級した。同時に進級したのは、皆エンダーの級友だった。スクールでビーンは地球情勢を分析し、ネット上で影響力を急速に伸ばしていたロックとデモステネスに向けて、スクールに捕らわれている子どもたちがバガー戦争終結の際にはロシアによって利用もしくは殺害される危険があると警告し、ほとんど間をおかずにロックとデモステネスもそれにこたえてスクールの潜在的危険性を世界に向けて発信するのだった。

 異例の速さでタクティカルスクールを卒業した一同は、小惑星エロスにあるコマンドスクールに移動する。ぺトラと二人きりで話す機会を得たビーンは、ボンソーの襲撃前夜、敵にとり囲まれたエンダーをわざと孤立させるように呼び止めた理由を問う。ぺトラは、ボンソー以外の連中にエンダーを襲わせることを画策していたらしい。彼女とエンダーが迎えうてば、無傷とはいかないだろうがどうにかできると自信があったし、それによってガス抜き効果が期待でき、結果、ボンソーがやがて孤立することを目論んでいたという。

 エロスでシミュレータによる訓練がはじまり、ほどなくビーンは、ある技師の不用意な発言から真実をつきとめる。エロスはかつてバガーの前哨基地だった。そこに残されたものから人類は人工重力の技術を得たのみならず、超光速通信をも学んでいたのだ。そして彼らスクールの少年たちが指揮するシミュレータこそが、今まさにバガーの故郷惑星へと進撃を続ける艦隊を実際に動かしているのだということを。

 エンダーが指揮官として戻ってくると公言していたビーンをグラッフが呼び出す。情報をどうやって入手したのかと問う彼に、ビーンは招集された面子がエンダーの親友ばかりで構成されているのを見れば誰にでもわかると切り返す。グラッフは会話が録音されていることをビーンに告げ、散策に誘い出す。地球政体が、ロックとデモステネスの扇動によりスクールの少年たちを地球に戻さざるを得なくなったことを苦慮しており、スクールでしか入手できない情報を彼らがどこから入手したのかを知りたがっていると告げる。ロックとデモステネスがエンダーの兄姉であることも。そしてさらに、ニコライが、彼の兄であることも。

 ビーンの推測どおりエンダーが彼らの指揮官となり、直接まみえることはなかったが、彼らはともに戦い始める。シミュレータはかつて第二次バガー侵攻の際に唯一、そして決定的に彼らを撃退せしめた伝説の英雄、メイザー・ラッカムがバガー艦隊を動かす形で展開し、それは日増しに難易度を高めていった。そしてビーンはそれらの戦闘がシミュレーションではなく、全て兵士たちが実際に命を賭けて挑んでいる実戦であることを知っていた。スクールの生徒たちは消耗していき、ついにぺトラが戦闘中に意識を失ってしまう。いちはやくそれに気づいたビーンの警告で、どうにか戦闘には勝利したが、艦隊は多大な損害を被っていた。そしてぺトラも。ビーンは、エンダーがペトラの異変に気づかなかったのは、彼自身が疲弊してしまっていたからであり、無意識に人命がかかっていることに気づいているからだと主張する。グラッフはビーンにのみ真実を告げ、励ます。そして他の生徒たちも、消耗してきたエンダーのフォローをビーンが行っていることに気づき始め、短いが心のこもった賞賛を彼にかけ始めるのだった。

 やがて最終試験が行われる。すなわちバガーの故郷惑星に艦隊がたどりつく時が。だがシミュレータを前にして彼らは言葉を失う。無数の敵に防御された惑星に、つけ入る隙はない。エンダーからは何の指示も出ないまま、時間が過ぎた。ビーンの前でボタンが点滅する。エンダーが戦えなくなったと教官たちが判断したとき、指揮権をビーンに移動するためのボタンだった。だがビーンもそのボタンを押すことはできなかった。単純に、何の策もなかったからだった。絶望的に、皮肉をこめてビーンはつぶやく。「敵のゲートは下だ」なつかしいセリフにドラゴン隊出身者たちが笑う。そして、エンダーから指示が出る。下へ、惑星表面へ、彼らの兵器が惑星ごと、艦隊ごと、バガーを滅亡させることができる距離をめざして。敵は彼らを攻撃するよりは退路を断つことを優先した。バガーには、自己犠牲が理解できなかったのだ。ただひとりの女王に完璧に統制された集合知性であるバガーが、地球人は全ての固体が女王と同等の重みを持つ生物であるとようやく理解したのだろう、とビーンは推測する。自殺的な攻撃は今まで見られなかったこともあって、今回も彼らが自らを犠牲にして攻撃をしかけてきたのだとは想像もできなかったのだと。艦隊は次々に撃破されていったが、ついに惑星は崩壊を始める。バガーは全滅し、人類は勝利した。グラッフから子どもたちに真実が告げられる。

 戦勝にわくのもわずか、ロシア人の配下が基地を、子どもを掌握するためにクーデターを決行した。将軍配下の兵士たちに守られて子どもたちは混乱の数日を過ごし、ようやくそれが収拾したとき、勝利の直後から延々と眠りつづけていたエンダーが目をさまし、今度こそ、仲間たちと再会を果たすのだった。

 地球情勢はなおも予断を許さず、東西陣営がエンダーの確保を画策する。それを救ったのはロック、すなわちエンダーの兄であった。彼は弟を移民船に乗せて時間の彼方に送り出す。

 そしてニコライとともに地球へ帰還したビーンは、両親の涙に
<以上ネタバレ>迎えられるのだった。<あらすじ以上>



 ここでも構図が垣間見える。すなわち、カードの主人公はつねに概ね正しい洞察力を発揮する。ビーンはアシルとまみえた瞬間から彼が危険な殺戮者であることを直感し、アシルが少年たちを家族のように重く扱い、慈悲をもって接しても決してそれを信用しない。そして彼の直感どおりアシルはまちがいなくきわめて危険かつ能力が高く偏執的な人物であり、宿敵となってゆく。

 大人たちはアシルの高い能力と本心をたくみに隠蔽した上辺のひとあたりのよさにだまされ彼を重用しようとするが、ビーンは彼のうそを暴き、彼の犯罪を白日のもとにさらけ出す。

 まぬけな大人たちと、つねに正しい洞察力を発揮する天才。物語に浸り切っているとさほど気にならないが、どうも致命的な誤謬をおかさない登場人物にはやや違和感を感じないでもない。



 前作との比較から、いくつかの齟齬も散見される。一番はっきりしている齟齬は以下の点だ。『エンダーのゲーム』では、エンダーがコマンドスクールに昇格すると知らされた直後、ビーンの心情が語られる場面があるが、その中で<引用開始>ここへ来たあとの最初の、ホームシックの二、三日以来、泣いたことはなかった<引用終了>(『エンダーのゲーム』p.367)なる一文がはっきりと記されている。『シャドウ』の前書きでカードは、二つの小説の“視差”は異なった視点から書かれたことによる云々といいわけめいたことを書いてはいるが、ことこの場面に限ってはそれは考え難い。『ゲーム』全体がエンダーの視点から描かれているのは間違いないが、この場面に限ってはエンダーが立ち去った後のシーンでありエンダーの視点から書かれているなどきわめて考えにくいし、彼が立ち去った後のビーンの心情をエンダーが推測して語っているなどと強引に解釈するのもナンセンスだ。『ゲーム』執筆の時点で、ビーンの来歴は構築されていなかったと考えるのが自然というものだろう。ビーンの凄まじくもきわめて短い浮浪児としての生活に“ホームシック”とは。



 むろん、違和感や齟齬は小さな瑕以上のなにものでもない。生き延びることをただひとつの目的として、冷徹にひたすら論理的に行動しているつもりのビーンの心の奥底にひそむ孤独や苦しみかなしみが、認められないこと、あるいは認められていくことによって鮮やかに描出されていくさまは、不意打ちのように描かれる心理描写によってきわめて鮮烈に涙を誘発する。『ゲーム』で、孤独な指揮官として描かれていたエンダーの影で、エンダーが感じていた以上に、懸命に彼を支えつづけてきたビーンの業績が描かれているのも、そして彼のそんな孤独な奮闘が徐々に仲間たちに認められていく過程も、きわめて感動的だ。

 予定調和的なラストシーンも、興を殺ぐことはない。ニコライという少年の描かれかたが秀逸だからなのか。



 もひとつ。特に私が声高に告発するまでもないことだが、ふたつの作品の同一のシーンにおける翻訳の巧拙が、読み比べによってきわめて明瞭に顕れている。簡潔にいうと、『ゲーム』は直訳、『シャドウ』は意訳、といったところか。たとえば、ドラゴン隊を初めて与えられたエンダーが自分の部下たちにまみえるシーン。『ゲーム』においては<引用開始>どれくらい諸君がうまいかをおれが突きとめたあと、どういうことになるのかをわれわれは見ることになろう<引用終了>(『エンダーのゲーム』p.262)と訳されているが、同じ部分でも『シャドウ』においては<引用開始>隊の方針を決めるのは、諸君らがどれほどの腕前かをおれがたしかめてからだ<引用終了>(『エンダーズ・シャドウ』上p.370)となっている。どちらがわかりやすい日本語であるかは、一目瞭然だろう。原文を見ているわけではないが、前者と後者を比べてみれば、だいたい原文がどう書かれているかは想像ができる。前者はまさしく直訳調だからだ。『ゲーム』を単独で呼んでいる時点では、特に読んでいてひっかかりを感じる部分はなかったが、物語自体の牽引力に訳文が助けられている部分がかなりあるのではないだろうか。

 まあ、翻訳の困難さなどあえていわれるまでもないし、翻訳という作業が大金を稼げる仕事であるともあまり思えないが、プロの仕事として原意を汲んだわかりやすい日本語を求めたい部分ではある。

 岡部なにがしの激悪な訳文に比べれば、特に害もない、とはいえるのだろうがね。



 さて、つぎは『ゼノサイド』だ。『ゲーム』『代弁者』『シャドウ』と、カードをベタぼめしてきたが、残念ながら『ゼノサイド』とそれにつづく『エンダーの子どもたち』は罵詈雑言のかたまり以外の何ものにも、なりようがない。あまりの落差に呆然としてしまう。いったいなぜなのかは、いまもってわからないが。


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※この記事は2010-03-22 12:37:47にアメブロに投稿した記事を移転したものです。

なお、移転元の記事は削除済です。








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