読書録『ゼノサイド』上・下 | 無名戦士の黒い銃

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読書録『ゼノサイド』上・下

読書録『ゼノサイド』上・下 オースン・スコット・カード/ハヤカワ文庫



素材使用


 さて、深い満足感を味わえた前作までとうってかわって、本書は最悪のできだ。天下のダブルクラウン受賞者にこんな放言をしてしまうなど蟷螂の斧もいいところだが、あまりにもひどい出来だとしか感じられないのでどうしようもない。

 ご都合主義。この一言につきる。いいかえれば、なんでもあり、だ。「なんでもあり」の芯に、物語展開に必要な屁理屈をぶざまに塗りたくったできそこないのお話だ。あのすばらしい作品群をものしてきたカードが、なぜこんなぶざまな物語しか構築できないのか、不思議でならない。こんなものを平気で通過させたエージェントも出版社も、どうかしている。魂が感じられない。再読しての感想だし、ほんとに好き勝手いわせてもらう。

 以下、いちおうあらすじ。もちろんネタバレ。ネタバレしたってどうってことない、とは思うがね。てか、どうでもいい設定がぞろぞろありすぎて、ネタバレだらけになっちゃった感が濃厚である。どうしようもない。


上巻

・惑星パスでハン・フェイツーは奇病に冒された妻の死に立ち会う。敬虔な宗教者である妻に比べ、ハン・フェイツーは神がみを憎悪し、そのために浄罪の儀式を行わねばならない耐え難い衝動に、妻との離別の悲しみさえ拭い去られてしまう。妻は娘を、自分と同じように神がみに忠実であるように育てることを夫に約束させ、息をひきとる。

 ルジタニアへ向かう旅の途上、ヴァレンタインはミロを乗せた船とランデブーする。ルジタニア粛清を非難するエッセイの執筆の手を休めて彼女はミロと会い、不自由になった肉体も含めて全てを率直に話し、反感をかいつつも理解しあう。

 ハン・フェイツーの娘チンジャオは、成長する過程で神がみの声をきく徴候を示す。異常な潔癖症で、手が傷つくまで洗わなければ気がすまなくなるのが、その顕著な徴候とされていたのだ。そして試験の場へとのぞんだ彼女は、手を洗い清めることもできない部屋に閉じ込められ、両手を油まみれにされてパニックに陥り、自分が救いようもないほど穢れていると感じて自殺をはかる。だが今まで試験されてきた者たちの中には自殺を遂げた者もいたために、簡単に自殺を決行できないように環境が整えられていた。チンジャオは像から飛びおりることで果たそうとしたがうまくいかず、その時、彼女の“心の先祖”である古代地球に生きた女性の詩を思い出し、それに基づいて、床の木目をたどって道を見出そうとする苦行を始める。失敗の後、必死になって部屋の半分まで木目をたどり終えた時、彼女は自分を苛んでいた罪悪感が消えたことを自覚する。神がみに許されたのだと考えると同時に、父が涙を流しながら飛び込んできて彼女を抱き上げた。チンジャオの行った“木目たどり”の儀式は、今までパスの“神命目録”には見られなかった特異なものであるため、彼女もまた神の子として特別な地位を与えられた。そして父ハン・フェイツーは、チンジャオが自殺をはかり始めたとき、捕縛された状態で、神への服従に反してまで、半狂乱になって娘を救おうとしたことが惑星中に知れ渡り、その声望をいよいよ高めたのだった。

 ミロとヴァレンタインは、彼女の夫ヤクトを交えて生命について論議する。ミロは肉体が動かない時期に、さまざまなことを考察したのだ。明瞭に話せない彼に変わって、コンピュータシミュレーションが彼の考察を語る。アンシブルを可能たらしめるフィロト接続は生命の源ともなっており、人間、とりわけ家族などの精神的に親和性の高い集団において特別な動きをする。コンピュータ画像はさらに、フィロト接続によって生まれた生命があると語り出す。それはもはや合成されたミロの言葉ではなかった。話していたのはジェインであり、彼女は生命の意味をヴァレンタインたちに問いかけ、自分が生命を賭してルジタニア粛清艦隊をとめるべきなのかを教えてほしいと問うのだった。

 ミロは衝撃を受ける。ジェインなら艦隊からの攻撃を阻止できるし、その結果彼女の存在が議会に悟られ、フィロティック網を断ち切られることで彼女が“死”を迎えることも確かに起こり得る。彼はどうにか他の解決策をさがすよう懇願するが、現時点で考え得る最良の策がひとつしかないのもわかっていた。悲嘆にくれるミロをジェインは逆に慰める。

 惑星パスでチンジャオは、父からルジタニア粛清艦隊が突然消えてしまったことを告げられ、なぜそうなったのか可能性を報告する仕事を与えられる。自分がどれだけ神がみに軽んじられているかに悩む彼女は、失敗の不安と、成功した場合のゼノサイドへ加担することへの恐怖を覚えるが、父に鼓舞され作業にとりかかる。ジェインはチンジャオの調査がゆっくりとだが確実に彼女を追い詰めるだろうことを予感し、彼女の行動を注意深く観察する。

 ルジタニアでは、微生物学者となったクァーラが、デスコラーダには“会話の矢”が存在すると主張する。彼らにも知性があるのだと。エラとノヴィーニャの研究でデスコラーダは驚異的な適応力を発揮していることが判明している。共存か戦争か。ノヴィーニャは秘密厳守を命ずるが、クァーラはヒューマンの父樹に状況をダイレクトに伝えてしまう。ヒューマンは父樹間で話し合い、窩巣女王にも告げ、粛清艦隊対策に女王はスターシップ建造にとりかかる。

 チンジャオは勤労奉仕の場で、シーワンムと名乗る娘に出会う。彼女は神子であるチンジャオに物怖じする様子も見せず、ずけずけと口をきき、チンジャオのシークレットメイドに雇われたいがために奉仕に参加したのだと口にする。チンジャオは彼女の知性を認め、友として育てたいと考える。

 その夜チンジャオはひとつの結論に達する。艦隊を隠したのは神がみ以外に考えられない。だがそんな報告を父が議会に行えば、ハン・フェイツーは笑いものになるだろう。神がみへの怒りを感じ、浄罪の欲求を強く覚えたが、それにどうにか耐え、父のもとへ報告にいく。父は彼女を称えるが、それは洞察への報酬ではなく、神がみが議会のへりくだりを待っているからだという。艦隊が消えた理由はやはり議会のために捜されねばならず、チンジャオは徒労感を覚えるが、父は彼女がその若さで真実に気づいたことを誇らしく思っていることを告げ、彼女の心を慰謝するのだった。正式にシークレットメイドとなったシーワンムを伴い、浄罪の儀式をも終えたチンジャオは嬉々とした気持ちで床につく。が、床にはいつくばって一心に木目を追うチンジャオの屈辱的な姿を目撃したワンムは、神がみへの深い疑問を抱く。

 エンダーと再会を果たしたヴァレンタインは、ミロ、プリクトとともに、復活した窩巣女王の都市へと向かう。そこには丈高いビルのようなものがいくつも林立していた。エンダーによると、女王はロケットを建設しているのだという。二機。バガーとピギーのためのロケットだった。だがエンダーにとっては二機とも、デスコラーダのためのロケットに等しい。女王は人類を殺さないと改めて誓い、宇宙に出たらデスコラーダを死滅させる処置をとることを約したが、デスコラーダがないと一代限りで絶えてしまうピギーにもロケットを与えることに執着する。人類と同じく、ピギーをも滅亡させることを肯んじ得ないからであった。ヴァレンタインはフィロト接続によってその場にいた4人すべてに女王の声がきこえ、またそれぞれの感情も境界なくもれてしまっているのではないかと不安に感じる。またプリクトがエンダーへの崇拝をますます強めたことに危惧を覚えるのだった。

 教会でミロは結婚して老けたオウアンダと出会い、以前と変わらないという彼女に破壊された体を見せつけながら罵声を浴びせる。一人、ルーターの父樹の下で嘆いていると、神父となったキンが姿を現し、癒される。キンはピギーの一部がデスコラーダこそ聖霊であり、人類は信仰薄いために第三の生へと転移できないのであり、ピギーこそ選ばれた民であると考えていることを知り、彼らを改宗させるためにルーターに彼らの居場所を問いかけにきたのだった。

 チンジャオはワンムから、市井の人々の噂をききだす。ルジタニアが議会の招請した人物を差し出すこと拒否すると決めたことで、スターウェイズ議会が粛清艦隊を出したことはまちがっている。例えばささいな誤解などに基づく違反の嫌疑によってハン・フェイツーが議会に招聘されたとしたら、フェイツーを慕うパスの人々は彼を差し出すことを拒むだろう。そのことによって粛清艦隊を差し向けられることを想像せよと。人々の意見は、デモステネスの著作に拠っていることは明らかだった。父が60年の時の隔たりの彼方にとばされてしまうことを余儀なくされてしまう状況を想像してチンジャオは恐怖を感じたものの、父なら進んで招請に応じ、彼を匿おうとする者にはむしろ激怒するだろうことを考え、議会を否定するワンムに怒りを覚える。不浄の言に木目たどりの衝動を抑えきれないチンジャオの姿を見て、ワンムは他人が口にした言葉に対して神がみが罰を降すことはおかしいと主張する。が、チンジャオは自分の心の中にも不浄の想いが秘められていたのかもしれないことに思い至り、そのことに気づかせてくれたワンムにむしろ感謝すら感じながら浄罪を終える。ワンムは議会に疑念を抱いたことを詫び、下がり際に問題解決のヒントになる言葉を口にする。そのことで、チンジャオは粛清艦隊を消滅させた手際と、デモステネスという扇動家が全く正体をつかませていない事実とに共通点を見出すのだった。

 チンジャオの発見に生命の危険を感じたジェインはエンダーに呼びかける。が、ノヴィーニャにそのことを悟られてしまい、彼女が嫉妬心を抱くのではないかと危惧する。同時にパスの親子を観察し、彼ら神子の行動がOCDという障害の症状に酷似していながら、OCDに有効な治療法に効果がなかったという報告を見出す。その背後に、スターウェイズ議会の影をかぎとり、ジェインはハン親子を味方につけるためにさらなる探求を続ける。

 総督がミロとオリャードを除くリベイラ一家、司教、そして代弁者を招請する。ピギーの一部が人類殲滅を画策していること、女王のロケットの問題を並べ、キンには一派の説得と改宗を、エラとオウアンダにはデスコラーダにかわるピギーたちの存続の鍵を握る変異種の研究を、グレゴには光速を超える移動方法を、クァーラにはデスコラーダとの対話と相互理解の可能性を、それぞれ進めるように要請する。

 ノヴィーニャはジェインの存在をきっかけにキンの旅立ちをとめようともしなかったエンダーを痛烈に非難する。エンダーはキンの無事帰還を切望するが、キンは好戦派の父樹ウォーメイカーにとらわれ、抗デスコラーダ剤を与えられぬまま7日目に息絶えた。勝ち誇るウォーメイカーに、ぎりぎりでまにあわなかったエンダーは、どんな詭弁を弄しようとピギー社会が彼らを許さず、この虐殺に関わったピギーたちは誰ひとりとして子孫を残すことが許されないだろうと告げる。

 ワンムはチンジャオに数々の示唆を与え、彼女があらかじめたどり着いていた結論へと誘導するが、彼女ら平民が神子より先に結論に達していたなどと思いもよらず、シークレットメイドである“賢明な”少女の言葉がきっかけで真実に自力でたどり着いたとチンジャオが考えていることに小さな憤りを感じていた。チンジャオはコンピュータの検索によって、デモステネスが、かつての人類の支配者=初代ヘゲモンであるピーター・ウィッギンの妹であるヴァレンタイン・ウィッギンであることを知り、フィロティック通信網のできる以前の時代にヘゲモンが叛乱の可能性に備えてコンピュータを自在に制御するプログラムを作成していた可能性に思い至り、今やその秘密を知る唯一の存在であるヴァレンタインが艦隊を消滅してしまったように見せているのではないかと考える。喜び勇んで父に報告に向かうと、ハン・フェイツーもまた彼らの知らなかった真実に至ったと告げる。すなわち<以下ネタバレにつき白字>神子の呈する浄罪は、やはりOCDに類似した身体症状であり、OCDの治療法が無効なのはそれが神子たちの肉体に遺伝子的に仕込まれていたからなのだと。そしてそれを行ったのはスターウェイズ議会であり、知能を遺伝子的に強化した人々を思い通りに操るための操作であったという。チンジャオは己が議会の操り人形であったと告げられ恐慌をきたし、かつて父から諭された論法で必死に反論し、父もまた迷いを示す。

 そこについにジェインが姿を現し、ハン・フェイツーの結論が正しいことを告げ、無垢の知性であるピギーと、ルジタニアに植民した人々を生贄にしようとする議会の邪悪さを訴えるがチンジャオはきこうとはせず、コンピュータ網を支配するジェインによってあらゆる報告は遮断可能であることに怒りを表し、どうにかして議会にジェインの存在を暴こうとする。だがピギーを守るために危険を冒して粛清艦隊をフィロティック網から切り離したジェインが、パスを遮断させるはずがないとワンムが看破する。なぜなら、パスが艦隊と同じように消滅したとしたら、人工的な天才を擁する植民星がついに遺伝子的な束縛を克服し、議会に叛旗を翻したと判断され、ルジタニアと同様に粛清艦隊が派遣されるだろう。そしてルジタニアと同様に、ジェインはパスの破滅を看過できないはずだと。ジェインはパニックに陥り、傍聴しているエンダーに、パスの破滅を選択すると繰り返すが、どうしてもその選択を実行することができない。それは彼女が知性体として高度であるためだとエンダーは告げる。知性体として高度であるために、己以外の他者も己の延長上にとらえることができ、そのために滅亡を看過することができないのだと。うかつに喝破した事実をワンムが口にしてしまったがために、チンジャオはジェインがアンシブルを遮断することができないのだと気づき、浄罪に苦しむ父にかわって議会に報告を送ってしまう。娘の早まった判断に父もワンムも絶望を示すのをよそに、チンジャオはついに父を越えて神子として成長できたのだと己を誇る
<以上ネタバレ>のだった。<以上上巻あらすじ>


下巻

・キンの死にリベイラ一家を慟哭が襲う。とりわけグレゴの怒りは凄まじく、ヴァレンタインの懇願も主長の制止もとめられない。ウォーメイカーとその眷属を滅ぼしつくすべく彼は群集を扇動する。だが群集は彼の制御を受けつけず、ウォーメイカーではなく最も手近の森に憎悪をぶつけるのだった。母たちとともに母樹が焼かれ、兄弟たちもまた虐殺される。一族の身を守るために母樹も自らを倒して人間を下敷きにする。グレゴはなんとかとめようとするがかなわず、入植者たちにもピギーたちにも、甚大な被害が及ぶのだった。そしてルーターとヒューマンの父樹の前では、ただ一人ミロだけが敢然と、暴徒たちの前に立ちはだかっていた。グレゴも遅ればせながらかけつけ、見知らぬ殺戮者の手でピギーが殺されたとして、その殺戮者とは全く無関係な自分や家族や子どもらが、同じ地球人だという理由だけでピギーの復讐の対象となってしまってもいいのか、と問いかける。バガーの介入も加わってようやくのことで暴徒は沈静していく。

 エンダーたちが戻った時、母樹の<以下ネタバレにつき白字>一部に再生の見込みがあることが判明し、また母たちの一部も生き残っていることもわかった。主長はヴァレンタインの忠告に耳を貸さなかった自分も暴徒たちや、彼らを傍観した人々と同罪だと全ての植民者たちの前で告げ、贖罪を人々に呼びかける。だがノヴィーニャだけは頑なにエンダーの言葉に耳を傾けることを拒みつづけるのだった。

 チンジャオにシークレットメイドの任を解かれ、邸を去ろうとするワンムをフェイツーが呼び戻す。議会の真実を知った者同士、協力しあおうという申し出に、ジェインも加わり、遺伝子的に強化された知性である神子のフェイツーと驚くべき洞察力を垣間見せるワンムの協力を得ることにより、ルジタニアで取り組まれている数々の試みに論評を加えるようジェインから求められフェイツーとワンムは応諾する。またパスの神子を束縛する原因をつきとめるため、ハン家を訪れる神子たちの遺伝子をワンムは集め始める。ミロとエンダーは互いの想い人を喪失したことで議論を交わす。そしてジェインが生き延びる方途を、パスの二人にも模索してもらうようジェインを説得する。

 ワンムはチンジャオにデスコラーダのデータを開示し意見を求める。が、チンジャオはそれを一笑に付す。ルジタニアには数種の生物しかいないが、自然界にそんなことはあり得ない。従ってピギーから与えられたデータそのものが捏造であると。ワンムは消沈するが、彼女の言葉をジェインがエラに伝え、その情報からエラは、デスコラーダは異知性体が惑星を自分たちに適した環境に造りかえるための、テラフォーミングの道具ではないのかと気づく。エンダーも議論に加わり、彼らはピギーの協力者でありヒューマンの息子であるプランターにその仮説を告げる。自分たちの種族がデスコラーダの奴隷であると知らされたプランターは激しく動揺するが、デスコラーダを完全に滅菌した時、彼から知性が失われていなければ知性だけは与えられたものではない証明になると考え、デスコラーダからの隔離をエラに要求する。だがその実験は彼の生命を危険にさらすことに他ならない。エンダーは反対するが、プランターは実行に移るのだった。

 ヴァレンタインはオリャードを訪ねて意見を求め、ミロもまた頑なに情報の開示を拒むクァーラに協力を要請する。エンダーは窩巣女王の許を訪れ、超光速移動の可能性をさぐる。成果は得られなかったが、思いがけない事実が発覚する。かつてのバガー戦争のおり、女王がエンダーと接触を試み、彼を操作しようとした際に彼の内部に作成したフィロトのパターンが、ジェインの核となっていたのだ。今でもそれはエンダーの中にある。ジェインを救出できる可能性が出てきたのである。

 パスではジェインがフェイツーとワンムに呼びかける。遺伝子強化能力はそのままに障害のみを正常化できるスーパースプライサーの可能性をエラが見つけたのだ。そしてワンムこそ制御されない天才であることも発覚する。だが神子が単なる議会の道具でしかなかったと知れれば、パスの人々は抑圧の反動で神子を皆殺しにしてしまうかもしれない。

 またグレゴとオリャードも、エンダーからフィロトについての女王の認識をきくことにより、超光速移動の実現を仮想する。それには、ジェインの存在が不可欠だった。

 クァーラは瀕死のプランターの説得によってデスコラーダに関するデータを開示し、エラとの共同作業でリコラーダ開発に取り組む。が、リコラーダを一から創造することは不可能で、デスコラーダを変異させることも不可能だとわかっただけだった。プランターは知性を保ったまま死に、父樹としては根付かなかったが、兄弟樹としては異例の伝説的存在となったのだった。

 ジェインはエンダー、ミロ、エラの三人だけなら船ごとの超光速移動も可能だと告げる。そしてフィロトの“外”でなら、エラが記憶したリコラーダのパターンや、パスの人々を解放するスーパースプライサーのパターンも存在させることができるかもしれない。エンダーとミロはジェインの存在を維持するのに必要と思われるので外せず、それ以上の人員を移動させるのは難しいと彼女は考えていた。女王が彼ら三人の乗る推進器のない“宇宙船”を48日以内に作れなければ、ルジタニア粛清艦隊による攻撃で惑星は破壊され、ジェインもエンダーが生きていれば消滅せずにすむかもしれないが甚大なダメージを受けることはまちがいないだろう。

 フェイツーはチンジャオにOCD治癒の可能性を告げるが、ついに理解は得られなかった。エンダーたちはジェインの力でフィロトの“外”へと赴き、エラはウィルスのサンプルを、ミロはかつてなくした完璧な肉体を、それぞれ創造する。だがエンダーが創造したのは、こともあろうに若き日のヴァレンタインとピーターだった。そして二人は実在として、ルジタニアに三人とともに出現したのだった。

 司教は“外”からきたピーターとヴァルを人間とは認めなかったが、ピーターを媒介にしてジェインがフィロトの“外”に移動できることが判明する。エンダーはピーターの脅威をこれ以上増やすことを恐れ、二度と“外”へは赴かないとかたく決心する。なにしろ、いま出現したピーターは、かつて覇者として人類に平和と統一をもたらした本物のピーターではなく、エンダーの想像した邪悪の権化に他ならないからであった。ノヴィーニャは肉体を取り戻したミロを見てエンダーを許すが、禁欲の宗教生活へ夫婦そろって入ることを欲する。肯んずることのできないエンダーを、司教の館でいつまでも待つとノヴィーニャは告げる。

 ジェインの力でパスを訪れたピーターはフェイツーにスーパースプライサーをわたし、ワンムを伴って再びいずこかへ旅立つ。スターウェイズ議会を駆逐し、いま再び世界に平和と統一をもたらす英雄とならんとする野望を実現するためだった。フェイツーはウィルスを使用してパスの人々すべてに強化され、制御されない知性をもたらす。神がみの意を歪めたスターウェイズ議会の暴走が正されたとの説明をジェインが流すことにより大きな混乱もないままパスの人々は変革を受け入れたが、ひとりチンジャオだけは父の行為を許すことなく、強迫観念を取り除かれた後も執拗に浄罪をつづけ、狂女として、そして後には、パスに残された唯一の神がみの声をきく最後の神子として、人々に
<以上ネタバレ>知られる存在となって生き、そして死んでいったのだった。<以上下巻あらすじ>





 さて、それでは思うさま煮えくり返った腹のうちをぶちまけさせてもらおう。

 まず、パス。このパスにまつわる部分は、なにもかもがうざい。

 その代表例が“神がみ”という訳語。むろん、訳語だから、原作者のカードにおいては落度はない──といいたいところだが、けっこうそうでもない。が、それはあとまわし。まずこの訳語、“がみ”を、漢字ではなくひらがなで通しているところが醜悪に一貫している。実に腹が立つ。読みやすさでも、見た目の“軽さ”でも、“神々”でまったく問題ない。というか、わざわざ“神がみ”と無用な漢字の開きかたをしたことで、この語が出てくるたびに読むリズムにひっかかりを感じてしまい、いらいらすることこの上ない。いったいなぜこんな無意味どころか有害なひらき方をしたのか理解できない──といいたいところだが、推測ではあるが理解はできる。難しい漢字は極力さけ、できるだけ平易で読みやすい文章を、というのが昨今の流行で、私自身もこのころは、開ける漢字はやたらと開いていたのだ。こういう例を見せつけられると、恥ずかしさに顔が火を噴く。

 そもそも、中国的な社会を基盤にしながら惑星名が“パス”とはちゃんちゃらおかしい。せめて“タオ”くらいは使ってほしかったところなのだが。中国的な世界だが、この世界を統べるのは西洋的な“スターウェイズ議会”だから、パスでもしかたないのかな、くらいに読んでいるときは思っていたが、あにはからんや、次作でスターウェイズ議会を牛耳っているのは日本的な文化圏であることが判明する(この日本的文化も噴飯ものの浅はかきわまる描写だが、こちらへの苦情は次回にゆずる)。設定の背骨がスカスカ。でも、これはごくちっぽけな違和感にすぎない。物語の出来がよければ喜んで無視した瑕疵。

 このパスにおいて、登場人物たち、とりわけ、ハン・チンジャオの醜悪さは耐えがたい。

 が、まずはハン・フェイツーから。当初は“神がみ”への疑惑を抱いているように描かれたフェイツーが、娘が成長した時には忠実な神がみの下僕のようにふるまっており、ジェインから真実を告げられる前後まで疑問にすら感じている描写がみられない。一貫性が見えない。いきあたりばったり感が、この序盤あたりですでにほのかに漂っている。

 あとまわしを片付ける。“神がみ”っつったって、具体的に名前が出てくるのは西王母だけだし、この神格に関する言及もいっさいない。ほかにどんな神がいてどのような信望のされかたをしているのかも描写がなく、ただパスの住民全体が盲目的に“神がみ”を至上のものとして道徳観を形成しているらしい。中盤あたりで<以下ネタバレにつき白字>明らかにされるとおり、その“神がみ”とやらへの忠誠心はスターウェイズ議会の陰謀にパスのひとびとがのせられた結果であり、実体はないのだが、そんな設定には全く無関係に、最初から最後までなんのリアリティも感じられない。ただ単に無思慮に盲目的に“神がみ”に追従する数人の登場人物が描かれているだけで、背景説明がいっさいないのだから(おそらく設定すらしていなかったのだろう)、ただただ<以上ネタバレ>読んでいて苦痛で、ひたすらいらいらさせられるばかり。背景設定の描写がないから現実の中国神話に関する乏しい知識と照らし合わせ、乏しい知識なのにそれすらからもあまりにも剥離の激しい浅はかな設定が繰り返し語られ、くどいことこの上ない。パスの人々の盲信ぶりとエンダーたちの苦境との対比を描くには、あまりにもバランスが悪すぎる。フェイツーやチンジャオの盲信ぶりに関する描写など、一章ぶんも費やせばおつりがくるわ。ばかたれが。なにより浄罪の描写の執拗さとくりかえしが不快で苦痛きわまりない。

 唯一衝撃的なのは、終始冷静な態度を保ちつづけていたフェイツーが“ハエとり”動作を突然始めるシーンだ。これはちょうどよい分量。チンジャオの“木目たどり”はくどすぎる。初回以外は“木目たどりをしないわけにはいかなかった。○時間も費やした”程度の描写でよいだろうに。いったいなぜこうも執拗に描写しなければ気がすまなかったのか。神子たちの強迫観念の強烈さを描写するなら、床に平伏して一心に木目をたどる姿を一度示すだけで充分以上のインパクトがある。それ以上は、蛇足。まったく、腹が立ってしかたがない。

 その初回のチンジャオの“試験”時の描写も妙。試験会場でかつて自殺した人間も少なからずいる、とか書いておきながら、チンジャオは室内にあった“像”によじ登り、そこから飛び降りることで自殺を果たそうとするのである。呆れてものもいえない。高低差のある物体があれば、そこに登って頭から落ちることにより死のうと試みる程度のことは、これだけの強迫観念に襲われている状況からすればむしろ当然。にも関わらず、チンジャオのこの“試み”は独創的である、との試験官の感想が。怒りを通りこして呆れてしまうご都合主義が、ここにもまた拭い難く存在する。

 このパスのひとびとの盲信ぶりは、意識的にか無意識にかは知らないが、自身モルモン教徒であるカードの内省の結果なのかもしれない。だったら、わざわざ中国的な社会など持ち出さず、せめてキリスト教を基盤にして展開してくれれば、このどうしようもない“とってつけた感”だけはなかったかもしれないのだが。だいたい“心の先祖”ってなによ。この設定、何も物語に対して役に立っていない。むしろ邪魔。チンジャオが神子として“覚醒”するシーンでは、ほんものの“チンジャオ”の詩がキーになってはいるが、そんなん、幼少時代に強く影響を受けた描写を一ページ程度入れとけばどうにでもなるでしょうが。“心の先祖”などというわけのわからない設定を押し込むことでよけいなゴミが物語のそちこちにだらだらと目立つばかり。異文化描写をしたかったのだとしたら、完全に失敗。異文化感はかけらも感じられず、ただただあさはかな思いつきがそのまま垂れ流されているだけとしか思えない。ヴァンスくらいカードだって読んでるだろうに。だがまあ、読んでたってそれを自家薬篭中にできるものではないことはまあ、シモンズのハイペリオンシリーズを読めば一目瞭然ではあるが……それにしても、この異文化感のなさはある意味瞠目に値するうすっぺらさだ。“ビーン”シリーズでは、東南アジアの描写がちゃんと活きてるのに、どうしてこの作品はこうも……。もうどうしようもない。泣けてくる。





 一息入れよう。


 小さな苦情をいくたりか。

 鬱陶しい存在の追加。クァーラとグレゴだ。クァーラもグレゴも『死者の代弁者』と変わらずトラブルメーカー。キンは前作とはイメージがかなり変わっているが、末弟末妹は性格が悪く思慮もたりない愚かなトラブルメーカーの面を強調されている。気にくわない。子どものころ愚かだった人間は成長しても愚か、とでもいいたいのだろうか、カードは。救いがない。もっとも、否定もしきれない。このあたりの設定、爽快感とは対極だが、不自然ではないので、見逃してもよい点ではある。他の作品だったら、むろん読み流してはいた部分ではあろう。だがことこの作品に限っていえば、鼻につく醜悪さのひとつになってしまう。





 で、もうひとりのキーマン、シーワンム。無意味に“西王母”の名をもち、無意味に“心の先祖”として、西王母を敬う彼女だが、だいたい実在の人物も神話上の神格もいっしょくたに“心の先祖”ってあたりが……。韓非子と李清照と西王母を同列にならべるか? それはともかく、このワンムは登場時は、カードの登場人物に特徴的な、権威に屈せずずけずけとものをいう爽快な人物として描写されていた。ああ、やっと風通しのいいキャラが出てきたな、と思ったのだが……。このシーワンムは、物語が進むにつれて急速にその魅力を喪失させていく。初登場時はヴァレンタインや“代弁者”エンダーに劣らぬ爽快感を発揮するが、シークレットメイドにおちついてからの彼女はどうにも冴えない。めざましい洞察力を発揮するのはよいのだが、それをずばりとは口にせずシークレットメイドとしての“分”をわきまえて主人であるチンジャオにヒントを示すだけ。それでチンジャオの勘違いが増長してあげくの果ては狂女と化さしめ、一生涯を浄罪に浪費させる結果となるのだから彼女の行動自体が爽快さとは真逆の結果にひたすら突き進むだけ。しかも不必要に卑屈で、ことあるごとに自分を卑下するがその底に拭い難い自尊心をみえ隠れさせつつ、そのことには言及がない。この人物も、物語の奴隷めいた扱いで、ご都合主義とまではいえないが感情移入しきれないし、前巻のエンダーのごとく爽快感も初出時以降はほとんど感じさせない。せっかくずけずけものをいう性格設定にしたのに、それが活かされているのはごく一部。チンジャオの“浄罪”の卑屈な姿に怒りを表明するのはよかったんだが、あとはただひたすらチンジャオをスポイルするばかり。このひとにもいらいらさせられる。

 そもそもこのワンムは、なんでだかわからないが、チンジャオの自分に対する深層心理における軽蔑を明確に感じ取っていながら、彼女に対して忠実な“使用人”であり続けるし、友情、というか愛情に近い感じの言動を繰り返す。神がみへの反発と怒りは表明するが、神がみへの奉仕に偽装したチンジャオの数々の侮蔑的態度にはひっかかりを感じる程度にしか描写がなされていない。一貫性が感じられない。





 そのチンジャオも、物語が進むにつれていらいら感の増幅を急加速させていく。その加速ぶりはまるで奈落に落ちていくよう。対してその描写の執拗さは、泥の川を渡らされているが如し。疲れることこの上ない。“神がみ”への奉仕を至上とし、それを貫く、ある意味パスのひとびとの姿を代表する、まちがった目標に邁進する人物として描写されているのだろうが、ワンムを含む“神子”ではないひとびとに対する優越意識がそちこちに散見されるし、ワンムの“賢さ”を認めるように見えてその実終始軽蔑し下においている。かたくなで醜悪で真実を認めない。腹が立つことこの上なし。まあこの人物造形は作者の計算どおりであるし、効果も計算どおりであるのは認めるので、ご都合主義とは無縁ではあるが、読んでいて非常に不快感を惹起する大きな一因であることもまちがいない。しかも救いようのない生涯を終えることになるわけだし。

 さらに“神がみ”が絶対的に正しいとするフェイツーの屁理屈をチンジャオは盲従し、あまつさえそのまま引用して父を逆説得し始める。一見正しそうに見える論理もどこかしら胡散臭いし、それに納得するチンジャオもどうにも妙。実際、パスのひとびとを支配する“神がみ”への論理事態が<以下ネタバレにつき白字>すべて屁理屈であり、議会による制御の結果であるわけだが、このあたりの<以上ネタバレ>神への疑念と信頼の揺らぎ具合が中途半端というか適当というか、いや、適当というのはちがうな、うーん、しっくりこないというべきか……。どうもこのあたりの屁理屈ぶりが、カード自身のモルモン教への姿勢が(無意識に)反映されているのではないかとか、西洋人のキリスト教への姿勢が(無意識に)反映されているのではないかとか、読んでいていろいろと邪推が拭いきれない。





 そうこうするうちに、これまた唐突に、バガーはうそをつけないという設定が突然出てくる。このへんもしっくりこない部分ではある。フィロトだのフィロトの外だのといった説明みたいにご都合主義的にしか感じられないほどひどくはないが。うそはつけないが、自分の信じている未来をさも事実のようにいうとか説明されてるあたりがどうにもしっくりこないし。二度と殺戮はしないと誓ったから粛清艦隊に対抗もしないが、ピギーの種族的虐殺を見たくないから彼らのために船を作成するとか、んじゃルジタニア人のための船を作らないのは、彼らが全滅しても人類全体の全滅ではないからとか。でも次作では人間のためにも宇宙船作ってるし。一貫性に欠けるように見えてならない。ピギーの種族的滅亡は看過できないから彼らのための宇宙船を建造するとあるが、ピギーが宇宙に進出したら人類の滅亡につながる可能性は全く考慮に入れていないらしいし。このあたりは物語の鋳型にあわせたご都合主義というよりは、最初に決めた設定にがんじがらめに縛られているといった感がある。もうめちゃくちゃ。


 あと、プリクト。『死者の代弁者』からの登場人物で、前作同様、思わせぶりな描写があるものの、プリクトは結局、たいした活躍をしない。ノヴィーニャとエンダーの仲を脅かす存在となりそうな描かれかただが、結局その役を担うのはジェインだし。はっきりいって、不要。次作でエンダーの代弁をするが、さして感動的でもないし必要とすら思えない。削ってよし。削った場合、代弁者の死を代弁する人物がいないというつっこみが読者から予想されることは確かだが、どうでもいいつっこみの部類に入る。むしろ不必要な人物を配したことで、物語に無駄な要素が増えているだけのようにしか思えない。


 もうひとり。老醜をさらすだけのオウアンダ。前作のヒロインのひとりだった彼女が、今回は他に役割はない。あまりにも身も蓋もない扱いようだ。もっとも、子持ちの中年女と化した彼女の描写がこの物語に加われば鬱陶しさもそれだけ増強されるわけで、よかったといえばよかったかもしれないのは確かなのだが。

 あいかわらずではあるのだが、ノヴィーニャの頑なさもむかつく。『死者の代弁者』において、ジェインからノヴィーニャのことを告げられたエンダーは彼女に恋をするかのような描写があり、ついには結婚して生活をともにするようになり、最終的には彼女への愛情に殉じて人類を捨て去る描写まであるが、なぜこのような頑なでかわいげのない人物にこれほどまでの愛情を注げるのか理解に苦しむ。その頑なさこそが彼女が苦悩にみちた人生を送る原因であり、結果でもあるわけで、この物語のなかでもっともかわいそうな人物のひとりであると考えることもできるし、その愚かさゆえに愛情を掻き立てられるとか理屈をつけられないでもないが、文中からは説得力をあまり感じない。むしろ家族第一主義的な感じの、アメリカ人的な変なこだわりしか見えないのは私の偏見なのか。


 プランターの死にまつわるあたりも、ご都合主義的。デスコラーダが<以下ネタバレにつき白字>彼らの“生殖サイクル”と不可分にからまりあっていることは前作の中心的な謎解きだったけど、デスコラーダを除去するとピギーは死んでしまうという描写は、プランターが出てきて自分たちの知性がデスコラーダ=異知性の操作の結果だと知らされる段に至るまで、いっさい出てこなかったように<以上ネタバレ>記憶しているのだが……。このあたりも唐突で、生命と知性の尊さを描出するために突然そういう設定にすることにした、という印象を強く受けるのだが、穿ち過ぎであろうか。でも、こうまで都合のいい展開や説明が次々くりひろげられたあとだと、とてもそうは思えない……。





 さて、ではこのあたりで、もうひとつの、そして最悪の“ご都合主義”の柱、フィロトについて言及したい。

 ミロとヴァレンタインたちが唐突に始める生命に関する哲学談義において出てくる“フィロト”に関する説明。アンシブル接続の詳細だが、“フィロト”という言葉をつけ加えた以上の意味あいが希薄な上に、親族間等、愛情の深さに伴って接続が強くなるという説明がどうにもうそくさい。だがこのあたりは序の口。

 で、前作で登場した際、どことなくご都合主義感を漂わせながらも物語のおもしろさに引きずられてうやむやになっていた“ジェイン”の不自然さが、本書においてついに爆発する。

 フィロト網に生まれてあらゆるコンピュータを自在に閲覧し、使用し、利用できるジェインが、なぜか艦隊の攻撃を阻止する程度のことで“議会”にその存在を察知され、あまつさえ抹殺される恐怖が語られるのだ。そんなもん、偽の情報を流せば時間稼ぎ程度ならいくらでもできるだろうに。ディスプレイ上に自由に像を出現させられるくらいだから、ソフトウェア的にはあらゆることができそうなものだけど……。ハード的に機械を停止させられたらどうにもできないのかもしれないが、個人所有のものも含めてすべての機械を停止させるなどいくら力のある政体でも不可能なんじゃ……。実際『エンダーの子どもたち』には議会に非協力的な世界だっていくらでも出てきているし。アンシブル装置はスターウェイズ議会が牛耳って管理しているらしいから、それをすべて切断することは簡単そうだけど、逆にジェインはルジタニア粛清艦隊を“消滅”させることで議会の目をくらましたり、逆にルジタニアから外世界へのアンシブルが切断されたかのように見せかけたりできてるのに。どうにもご都合主義的に思えてならない。まあ、最初は議会も目をくらまされていたので、パスの親子+ワンムのような天才がジェインの存在を洞察しなければばれずにすんだのかもしれないけど。それにしたって、粛清艦隊を見かけ上“消滅”させるなんてあからさまに怪しい状態を起こさず、偽の通信で議会とやりとりするとか、ルジタニアが破壊されたように情報操作するとか、ジェインならどうにでもできると思うんだけど。コンピュータ自在に操れるんだから、そもそも粛清艦隊を別の無人の惑星か何かに誘導して破壊させることだって簡単にできるんじゃないかと思うんだが……。コンピュータの情報だけじゃなくて肉眼で星座とか確認して自分が本当はどこにいるのかを把握しなければならないとか、偏執狂的な規則が艦隊にはあるからごまかしようがないとか、理屈ならいくらでもつけようがあるが、仮にそんな説明があってもご都合主義的な印象は変わらなかったと思うけど、そんな説明はどこにもない。いずれにしろ、物語のプロットに無理矢理理屈を当てはめた印象は、このあたりでどうにも拭い難くなってくる。

 で、物語の中盤やや後半あたりで、ジェインの誕生の秘密が<以下ネタバレにつき白字>実は、かつての戦争の際にバガーがエンダーを操ろうとした際に行ったフィロト操作の産物なのであったという、これまたご都合主義的っぽい“謎の解明”が。最初からカードによって設定されていたのか、途中で思いついたのかは、たしかに不明。ジェインの存在自体がバガーの介入によって始まった、程度には考えられていたのかもしれないが、フィロトの外から女王の意識を繭に移動させるとか<以上ネタバレ>哲学だが擬似科学だかムーだかどうともとれる説明は説得力がない、というより、もう何でもあり感がどんどん増幅する。

 その後、とうとう<以下ネタバレにつき白字>フィロト接続と超光速航法が強引に結びつけられる。このあたりになると、もうほんとに好きにしてくれという感じ。アンシブル網で結ばれた全コンピュータの情報を利用して計算できるとはいえ、思考存在であるジェインが物体をある場所から別の場所へ、フィロトの“外”を経由して一瞬に移動させるとか。でもそれには全コンピュータを総動員して計算する必要があるとか。意味がわからない。というか、説明を創出するためにフィロトだのフィロト網だの、その“外”だの、あげくの果ては“アイウア”だのといった超越的事象を想定し、それだと何でもありになってしまうので、場当たり的に制約事項を次々につけ加えていった──という印象しか<以上ネタバレ>残らない。

 で、デスコラーダを無害な存在にかえるリコラーダについての描写も。なんでだか、理論上は想定できるリコラーダが、物理的には絶対に作成不可能だと判明する。意味がわからない。いったいどういう理屈なんだか……。カードはこの理屈をちゃんと構築しているのかも、私の判断の外では確かにある。だけどもうほんとに、何もかもがご都合主義にしか思えない。さらに、それを実現する唯一の手段が、フィロトの“外”にその知識をもったエラが赴き、なんだか哲学的にだか何だか、想像するんだか創造するんだかで実在する、と。それをもって“外”から帰還できるかもしれないんだかどうとか、と。……もういいかげんにしてくれ、といった感じ。うんざりだ。スーパースプライサーの情報を<以下ネタバレにつき白字>できるだけ精密に覚えてフィロトの“外”でそれを“創造”するという展開自体がそもそも無理矢理。意図どおりにエラがスーパースプライサーを創造してしまうのもご都合主義的展開だし、ミロが健康で完全な自分の肉体を“創造”してそちらにアイウア(わけのわからん造語ももうたくさん。“魂”じゃなんでいけないのかな)を移動させるのもご都合主義的。この二人は自分に都合のいいものを創造できたのに、エンダーは予想外で望んでもいないものを出現させている。彼の無意識がそれらの出現を望んでいたと強引に好意的に解釈することもできなくはないが、この時点で、そんな解釈をしてあげる気力さえ根こそぎなくなっている。だいたい、この後にもさまざまな人間やピギーやバガーをジェインは“フィロト移動(仮)”させるのだけれど、二度とこういう怪奇創出現象は<以上ネタバレ>発現しないし、それに対する説明、というかいいわけすら見当たらない。物語の都合に応じて奇妙な事象を現出させ、無理矢理それに説明を当てはめ、物語の筋に無関係な部分はほとんど無視。しているようにしか思えない。読んでいて幾度、いいかげんにしろとつっこまされたことか。こんな読書体験は私は求めていない。

 んでさらに。この時点では、エンダーがいないと“フィロト移動(仮)”は実現できないようなことをカードは描写している。で次に、エンダーに“創造”されたピーターとヴァレンタインのどちらかがいれば“フィロト移動(仮)”可能なことになる。ところが、次作ではいつのまにかピーターもヴァレンタインも“フィロト移動(仮)”には必要不可欠ではなくなっている。なんだかうやむやのうちに反故にされた設定だ。実はエンダーもピーターもヴァレンタインも最初から理論的には不必要だっだがジェインの思いこみで必要とされていたのだとか、その程度の説明すらどこにも見あたらない。物語の整合性を放棄しているのではないかと強く疑いたくなってしまう。好きな作家トップ10に必ず入るカードだけに、こんな疑いなど持ちたくはないのだが……。ていうか、疑いですら、ないんだよな。正直。あり得ねえよ、もう。ホントに。


 むろん、よいところもある。

 たとえば、ミロの肉体の悲惨な状況にも遠慮せずずばずばものをいうヴァレンタインは痛快で、カードの描く登場人物らしい、身も蓋もないがゆえにかもし出す爽快感をまとっている。

 またデスコラーダの正体に初めて言及するのあたりの展開は、センス・オブ・ワンダーを感じた。なるほど、そういう手があったか、という感じで、これもどうも後知恵くささが濃厚に感じられはしないこともないが、よいパズルのはまり具合だ。文句はない。少なくとも、ぐじゃぐじゃに砕いてむりやりいろいろあてはめていく感のふんぷんと漂うフィロト哲学あたりの描写とは一線を画している。

 それから……それから……。それから、いいところが他に思いうかばない……。

 初読時に感じた最大の「詐欺じゃねえか」感、すなわち、上下二巻も費やしてどうでもいい設定の糊塗の連続ばかりで物語が完結しない点、に関しては、再読時には感じなかった。あたりまえだ。完結しないことは再読する前からわかっていたわけだし、続編が出ていることも既知の事実だからな。

 もっとも、前回読んだ時の内容はほとんど覚えていなかったのもまた事実。“神がみ”が鬱陶しかったことと物語がとんでもなく中途半端に閉じられたこと以外、何も覚えていなかったといっていい。驚いたことに<以下ネタバレにつき白字>ピーターとヴァレンタイン(の模造品)が出てくる、などという<以上ネタバレ>驚愕の(強引な)事実ですら、まったく記憶になかった始末。おかげで、(あまりの強引な展開に)少なからぬ驚愕を覚えさせられたことは覚えさせられたのではあるけれど……。でも自作を含めて、納得のいく展開とは、とてもじゃないが<以下ネタバレにつき白字>いい難い。ピーターが出てくる意味も、ヴァレンタインが出てくる意味も、どうにも感じられない。だって、二人とも善悪の象徴のはずなのに、ただのふつうの(個性的で異状に高い能力を持ってはいるが)それぞれの個人に過ぎないことが判明するわけだし……。エンダーを殺して<以上ネタバレ>リセットする、程度の意味あいしか感じられないんだよな。

 ホント、ひどい。あきれてものもいえない。のに、むりやりいろいろいったから、疲れてしまったよ。

 次作も読み終わっている。これがまた今作に比肩し得るひどさなんだよなあ。

 この作者は、あたりはずれの振幅がひどすぎると、まざまざと実感させられた駄品でありました。


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※この記事は2010-04-04 19:38:51にアメブロに投稿した記事を移転したものです。

なお、移転元の記事は削除済です。





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