レビュー「シャンブロウ」 | 無名戦士の黒い銃

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レビュー「シャンブロウ」

C・L・ムーア『ノースウェスト・スミス 大宇宙の魔女』仁賀克雄訳 ハヤカワ文庫SF
「シャンブロウ」


oni-d_w04.jpg



 青木無常です。

 以下に『大宇宙の魔女』所収の短編「シャンブロウ」のレビューを記載します。
 ネタばれしていますので、ご注意下さい。






 まず、初っ端で、引用文の体のような形で、有史以前の人類は忘れられた文明をもっており、宇宙を征服していた云々とあります。
 実は、これにだまされました(^_^;)。

 過去の物語と勘違いしていたが、そうではありませんでした。
 時系列としては、スタンダードなスペースオペラによくある、未来の物語と考えてよいようです。

 再読のはずなんですが、ディテールはすっかり記憶の彼方にありました。
 また、この物語はディテールに濃密に漂う“ムード”が全てであり、あらすじとしては複雑な部分はいっさいありません。

 主人公が謎の異星人を救う。ところがその異星人は<以下ネタバレ>人間の精神をテレパシーで侵食し、捕食する恐るべき存在だった。危機一髪のところを、相棒に救われる。<以上ネタバレ>

 要約すれば以上。



 何よりこの物語のポイントは、執拗に書き込まれた“シャンブロウ”(用語集)(Wikipedia)という存在の淫靡さ、不気味さ、妖艶さと、それにあらがうべくもなく飲み込まれ、溺れていくノースウェスト・スミス(用語集)(Wikipedia)の様子――いわば感覚が全て、といってもいいでしょう。



 怒りに満ちた群集が執拗に“シャンブロウ”を抹殺しようとするのも、その内包する淫靡さや悦楽の底知れなさをかれらが充分に承知しているからであり、だからこそなおヒステリックに、狂気的にならざるを得ない。



 そして主人公のスミスも悪名高いならず者、というスペースオペラの、ある種類型的な造形を与えられ、顔面の傷や無骨な銃など、定番といってもいいアイテムを与えられながら、ほとんどそれを使用する機会すらないまま、ただ底なしの愉悦になすすべもなく飲み込まれていく様子が、じっくりと、ねっとりと、細密なまでに描きこまれている。

 外形は英雄・強者でありながら、スミスはこの短編では最後までただ巻き込まれ翻弄されるだけの被害者として描かれていることは、野田昌宏大元帥(Wikipedia)も指摘しているとおり。

 そしてこの部分こそが、この物語のもっとも深い魅力を体現しているのではないかと思います。

tanjo_004.jpg



また、本作では相棒のヤロール(用語集)が<以下ネタバレ>かろうじて残った理性を振り絞って危地から生還する、<以上ネタバレ>という結末になっていますが、そのあたりの理由づけに関しては、以下のような記述が見られます。

<以下引用>(前略)はるかな昔の金星人の祖先から引き継いだ、古い沼沢地生まれの記憶……<以上引用>(p.47)

 この記述だけからでは、作者のムーアがどういう意図を抱いていたのかはわかりませんが、金星人には祖先から記憶(あるいは集合的無意識のようなものでしょうか)を受け継ぐ能力というか、特性がある、というふうに考えれば、魅力的な裏設定であるように思えますね。


li-oni-b02.jpg




 余談ですが、主人公の名前「ノースウェスト・スミス」。われわれ日本人からすると、宇宙冒険者らしい、かっこいい響きに思えるのですが。

 このノースウェストは直訳すると「北西」。
 スミスはアメリカではありふれた名字で、日本でいうところの鈴木とか佐藤に近いイメージなのではないかと思われます。

 なので、あえて日本語に移し変えると「鈴木北西」といったようなイメージになるのかもしれませんね(^_^;)。

 英語圏の読者が、この「ノースウェスト・スミス」という名前から受けるイメージが、われわれ日本人のそれとずれがあるのかないのか、興味が掻き立てられる部分ではありますね。

inoti_6.jpg



 以下は用語集には載せにくい、覚書的な内容です。


<以下引用>中国対アーリアの戦況<以上引用>(p.33)

「アーリア」というのは人種の名前で、民族や国家とは直接結びついているとは思えないのですが、この文脈からすると、ノースウェスト・スミスのいる未来では「アーリア」という国家が成立しているようにも受け取れます。
 なかなか興味を掻き立てられる設定ですが、「シャンブロウ」を読む限りはこれ以上の情報はないので、本当に国家なのか、あるいは何かの機関なのか、それとももっと別の何かなのかは判然としていませんね。


<以下引用>かれは驚くべき豊かなバリトンで、「地球の緑の丘」を口ずさみながら階段を上っていった。(p.33-34)

 ノースウェストが一仕事終えて宿に帰っていく場面からの引用。
「地球の緑の丘」とくれば、かのハインライン御大の名作短編のタイトル――と言いたいところですが、実はまさしくこの「ノースウェスト・スミス」シリーズの「スターストーンを求めて」という作品から採られたものだそうです。(参考:Wikipedia)


 以上、「シャンブロウ」のレビューでした。

 それでは、また。



Amazonリンク
ノースウェスト・スミス

yoru-03.jpg


※本記事中の画像は「篝火幻燈」からのフリー素材を使用しています。

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